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Jinsen's パイプ

ラットレー: ブラックマロリー

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 ラットレーのラタキア物、それも50グラム缶は3種あり、前に書いたレッドラパリー、このブラックマロリー、それとセブンリザーブである。このうちセブンリザーブは「一日中吸ってもお口を痛めません」の保証付き、つまり軽口に仕上げてあるそうだがぼくは未体験だ。
 この3種は兄弟ブレンドで葉組はおなじとされ、ラットレーの古いカタログには以下のように表記される。
「レッド・バージニアに加えてシリアン・ラタキア、そして高価なマハラ・デュベク・トルコ葉」
 しかし現在のコールハス社の説明はこうなってる。
「スパイシーなラタキアとカットしたバージニア葉がキャベンデッシュとオリエンタル葉にミックスされた」
 そしてこのキャベンディッシュの表記がレッドラパーとブラックマロリーでは微妙に違い、前者はダーク・キャベンディッシュ、後者はブラック・キャベンディッシュとなっている。
 さて。そこで吸ってみると……。
 缶をあけるとラタキアの香りにやや脂っぽい匂いがまじる。これはまぎれもないブラック・キャベンディッシュの匂いだ。
 そして火をつけると、丸い、じつに丸い。レッドラパリーの鋭さがない。そして甘みと酸味がおだやかにきてオリエントはかなりひっこんでいる。レッドラパリーにはバージニアの青臭さがややあるが、こちらは感じない。
 もし葉組がおなじとすると、バージニアのキャベンディッシュとオリエントの配分が逆転し、レッドラパリーはオリエントが強く、ブラックマロリーはキャベンディッシュが強い。しかしキャベンディッシュにも違いがあるとすると、ブラックマロリーはしっかりストーブされたブラック・キャベンディッシュ味だと思う。
 総じて、ブラックマロリーはおだやかなタバコである。静謐なタバコ、とむつかしい漢字を当てはめたくなる。バージニアの甘みと酸味もおだやかだし、オリエントもおだやか。じっと吸いつづけるうちにじわじわと味がでてくるじつに謙虚なタバコだと申し上げたい。
 ぼくのように年寄りでしみじみたのしみたいならブラックマロリーがいいが、ガツンとくる強い味が好きならレッドラパリーがいい。ただしダンヒルのラタキア物はもっとくっきりしていて強い。このあたり、もしかしたらイギリスとスコットランドの民族の気質が出ているのだろうか。
 そうそう。ラットレーのタバコの命名はじつにユニークでスコットランド人独特の(日本なら沖縄人のように)謙虚ななかに鋭い人間洞察を含めている。レッドラパリーはラットレーのカタログには「ボヘミアン、放浪者のこと」と婉曲に書いているがじつはアイルランドの反逆者の一団をさす言葉でラットレーが密かに信奉していたのではないかとも思ったりする。ブラックマロリーのマロリーは英語のニュアンスでは接頭語のmal-に「悪、不幸」の意味がこめられ、malice(悪意、敵意)のように暗い言葉を感触する。しかし一方で名前のmalloryはフランス語源で「美」に通じるというし、このあたりぼくはなにかしら複雑なスコットランド気質を感じてしまう。マ、ぼくの思いすごしかもしれないけど。

by jinsenspipes | 2010-05-15 18:06 | ラットレー