エソテリカ: ティルベリー ( Esoterica: Tilbury )
缶をあけると、おや、ダンヒルのロイヤルヨットに似た熟成臭。ますます期待がたかまる。シャグに近い細かいカットでたまたまヨットが空いていたので比べてみると、ヨットよりさらに細かいカット。明るい葉と暗い葉が半々に混じり、これもヨットに似ているがヨットより明るい葉が多い。これはゴールデンバージニアと、たぶんストーブドバージニアの混合と思える。
火をつけると、ああ、ゴールデンの青臭さとストーブドの熟成臭がどッときた。じつに旨いたばこだ。ヨットと似ていると書いたがヨットは熟成臭が圧倒的に強く、ためにやや脂臭い、ミルクのような独特の味になるが、こちらはもっと淡白である。バージニア葉の新鮮な味が支配的でそこに熟成臭がやや香る。そのバランスがたまらない。このゴールデンバージニアはトーストされてる気がする。ごくかすかだが葉巻の香りを感じることがあるのだ。
じつにクールに燃焼するたばこだ。よく味わってみると、バージニアの甘みに塩味がまじっていた。G.L.ピースは塩をいれないたばこは無いといっているが塩味を実際に感じることはめったにない。しかしこのたばこはあきらかに塩味がある。このクールな感触は塩味と関係するのかもしれない。
もうひとつふしぎな香りがあり、最初はそれが何かの着香かと思ったが、やっているうちにバーレーの香りと気がついた。チョコレートを連想させるような木の実のうっすらした香りである。そう思って吸うと、全体に丸みがあり、これはバーレーのおかげだろう。
ジャーマイン社の説明によると、葉組はバージニアとごくわずかのバーレーとあり、100年の歴史をもつ当社の熟成プロセスで仕上げてこのユニークな自然の香りをひきだしたとあった。「圧倒するたばこ、目のくらむばかりの喫味」と、自信たっぷりである。たしかにこの宣伝文句にはうなづけるものがある。
ロイヤルヨットも、想像してみると、ただストーブドバージニアの熟成味だけでなく細部にもっと含み味がきっとあったのだろうし、体験者はその不足を嘆いているのだと思われる。しかし一方、ジャーマイン社のこのティルベリーにはじつに複雑な「目のくらむばかり」の喫味があちこちに顔を出し、吸うたびに発見があったりする。
ジャーマイン社のエソテリカシリーズはもともとアメリカのたばこショップ、スモーカーズヘイヴンとロンドンのソブラニー社の共同開発商品だったことは前に書いた。それをおなじイギリスのジャーマイン社が引き継いだのだが、そこには歴然とイギリスたばこの伝統が生きづいているとぼくは思う。デンマークのオーリック社がダンヒルのレシピでおなじたばこを作っても肝心の伝統部分は欠落しているのとは大違いである。
これからしばらくはティルベリーを吸い、「100年の歴史をもつ熟成プロセス」はじっくり味わってみたいと思う。
またまたいいたばこと出会えて、天邪鬼さんには感謝しないといけない。