Jinsen's パイプ

2011年 03月 25日 ( 1 )

マレー・サンズ&カンパニー: エリンモア(Erinmore)

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 ガーウィズ・ホガースのブロークンスコッチケーキがすっかり気に入り、毎日やってたら2週間で空になった。バージニアの繊細な味に加えてKendal Scentの香る甘口の味がなんともすばらしい。とにかくひと缶あいたのでつぎにエリンモアのフレーク版をあけてびっくり。なんとそっくりの味わいなんだ。
 エリンモアはいまは亡きMurray Sons & Co.の看板ブレンドだった。この会社はダンヒルたばこを長く製造し、今はデンマークのオーリック社が作るがひと昔前のマレー社製ダンヒルは愛煙家の垂涎の的である。アイルランドのベルファーストで1810年に創業した老舗で1981年、ダンヒルがたばこ部門を切り離した際に全ブランドをマレー社に移管した。ダンヒルの技術者も全員マレー社に移動、質のいいダンヒルたばこを送り出すが、1999年にBAT社(ブリティシュ・アメリカン・タバコ)に買収され、2004年に廃業した。そしてマレー社が作るダンヒル、エリンモアなどのブレンドはすべてBAT傘下のオーリック社に移管された。エリンモアはマレー社が1920年代に発売したがいまのはオーリック製なのである。しかしヨーロッパ、とくにイギリスのエリンモア贔屓は継続し、オーリック社製になっても品質は落ちずいまでもファンは多い。オジイちゃんの代から我が家はエリンモアですというイギリス人をみかけることもある。
 葉組はバージニアとバーレー。缶をあけると、珍しや、4センチほどの短いフレークがびっしり。ふつうのフレークは缶の長手方向に切るがこれは短い辺の長さで羊羹のように切る。そして甘い香りがムッとくるがこれがGH社のスコッチケーキに酷似する。はて、これは? よくよく考えるうちにこの香りは茴香/アニス系の香りではないかと思うようになった。
 茴香(フェンネル)とアニスはどちらも香辛料に使われ香りが似ている。茴香は漢方薬の安中散の主成分だから我が家の漢方胃腸薬でおなじみである。似た香りを持つものに中華料理に使う八角(スターアニス)がある。じつはこちらは別種の植物だが香りが似ているのでアニスの名をつけている。
 余談だが、ぼくは中華料理を作るのが趣味で毎日中華鍋を振っているが、お手本にしている新宿の汚い中華屋のラーメンの味にどうしてもわからないひと味がある。あるとき思いついて八角(これはふつう肉の臭み取りに使う)を買ってみたら、ピンポーン! ラーメンに八角を入れてたんだ。以後我が家のラーメンは八角入りとなった。
 ぼくがKendal Scentとしてきたのあの香りは茴香/アニス/八角系なんじゃないかと思うようになった。前にエナーデールを書いたときおばあちゃんの箪笥をあけた匂いと書いたが茴香や八角は線香の主成分でもあるからあながち間違いではない。しかし同時に気づいたのだがラットレーのマーリンフレークなど吸っているとフッとこの香りがくることがある。バージニアのみ、無着香のたばこだからもしかしたらバージニア葉にこの手の香りがあるのかとも思う。いやあ、ぼくの嗅覚もだいぶ開発されてきた。
 しかしここに大問題がある。アメリカ人のレビューを読むとこの香りを「典型的イギリスたばこの香り」とする評者が多い。その一方でぼく同様Kendal Scentとするレビュワーもいる。しかしマレー社はアイルランドの会社でエリンモアはアイリッシュたばことして有名だし、例のGH社のスコッチケーキはわざわざスコットランド風とうたっている。しかもだ。スコットランドのラットレーには際立ったこの香りはなく、バージニア葉固有のものと思われる香りはわずかにあるがエリンモアの強い匂いとはほど遠い。ついでに書くがエリンモアの香りは茴香/アニス/八角系にプラスしてリコリスの甘みが強く、ケンダルたばこもまったくリコリスの甘みを加味している。どうなってるんだ。
 UKのたばこ通販会社の解説を読んでいたら興味深い一節があった。「エリンモアは大英帝国で栽培された葉のみ使った最初のパイプたぱこです」というのだ。つまりアメリカ産のバージニア葉でなく、1900年代初頭の大英帝国、そのアジア・アフリカにわたる植民地でとれたバージニア葉でブレンドしたという。真偽のほどはわからないが、ここにもやはりイギリスたばこでござい、というお墨付きを感得できる。
 もう一つ、エリンモアを語る識者はかならずコンドルとセントブルーノを引き合いに出してくる。この2種はイギリスでもっとも売れてるパイプたばこだが、それとこの茴香/アニス/八角の香りはどう関係してくるだろうか。このあたりはコンドルとセントブルーノを吸ってみるとわかることかもしれない。じつは今、手許にUKの通販会社から届いたその2種のたばこがあり、エリンモアを終えるとつぎはそれになる。ちょっと期待感が高まった。
 このレビューはなぞなぞみたいになっちゃったが、肝心のエリンモアの味はというと、ぼくは大層気に入った。バージニアの深みは充分もちつつバーレーで味をやわらげ、そこに茴香/アニス/八角系の甘い香りがくわわってもうしぶんない喫味である。

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by jinsenspipes | 2011-03-25 11:53 | マレー・サンズ&カンパニー | Comments(12)