Jinsen's パイプ

<   2010年 05月 ( 9 )   > この月の画像一覧

パイプタバコの製造 -3

a0150949_11371225.jpg


 18世紀はヨーロッパ全土に嗅ぎタバコ(snuff)がひろまる世紀だった。嗅ぎタバコはすでにスペイン、フランスでは普及していたが18世紀にイギリスに及び、まず貴族社会で流行、のちにはロンドンの路上でも見られた。タバコ製造会社の最古参、イギリスのサミュエル・ガーウィズ社は1792年、アメリカ最古参のロリラード社は1760年、いずれも嗅ぎタバコ製造で創業しているから当時はこれが有望株とみられたのだろう。パイプ喫煙はクレイパイプが壊れやすいうえに着火がたいへん。マッチはまだないから喫煙者は付け木で暖炉の火を移すか、火打石を打って火花を火口(ほくち。日本でホクチダケと呼ぶキノコを綿状にほぐしたもの)に移して火種とした。それに比べると嗅ぎタバコは火を使わず、優雅である。

 サミュエル・ガーウィズ社の社史によると1792年の創業時、先代の創始者はグラスゴーでスナッフ製造を学び、1750年頃作られたスナッフ用ミル(粉砕器)を所在地のケンダルに運搬したとある。グラスゴーはイギリス北部スコットランド最大の港で、アメリカ大陸にもっとも近く、アメリカからくるタバコの半分はこの港に陸揚げされた。当然タバコ産業の中心地となるが、ケンダルはその南にあってロンドンへの陸路の中間点にあたる。当時のスナッフ・フィーバーはそうとうなものだったと想像される。

 もちろんパイプ喫煙がすたれたわけではなく、製造業者はブラグを作っていたがこれは別の用途もあった。噛みタバコ(chewing)である。噛みタバコはすでに1660年頃イギリスに見られたとされるが18世紀に広く普及した。タバコは貴族や上流階級の嗜好品になっていたが最大の消費者は船乗りや軍人さらに産業革命で急速に増大する炭坑夫だった。彼らはなによりもニコチンの補給つまり過激な肉体労働の合間に神経をリラックスさせる必要があった。火を使うパイプは木造帆船の船乗りや火薬を扱う軍人には禁止されたし、炭坑夫も坑内では火は使えない。噛みタバコがもっとも有効だった。
 イギリスのタバコ会社のプラグは船乗り、軍人、炭坑夫のズボンのポケットに収まり、端を欠いて噛みタバコとした。またこれはナイフで削げばパイプにも使える。同種のものにツイスト(ロープ)タバコがあるがこれもおなじである。ツイストタバコは別名ハットバンドともいい、タバコのかたまりを帽子のハットバンドに挟んで持ち歩いた。

 古いジョークがある。
「イギリスのタバコに無駄はない。炭坑夫はプラグやツイストを坑内では噛みタバコ、それを乾かして自宅やパプではパイプで吸い、灰は砕いて嗅ぎタバコとする!」もちろんこれは冗談。

 おなじ頃、アメリカを見ると、タバコ喫煙者はごく少数、産業もなかった。タバコ葉はヨーロッパに輸出する作物で、消費物ではなかった。タバコ葉の栽培農家はその一部を自家用にし、近隣にわけたりしたが、用途は噛みタバコで、自家用タバコは砂糖水などに漬けて味付けし、そのまま噛むか、あるいは樹木に穴をあけて葉を押しこめてプラグ状にした。パイプ(クレイ)は高価なヨーロッパからの輸入品(それも粗悪品)だったし、手軽なコーンパイプの発明はつぎの世紀になる。この時代に嗅ぎタバコ製造を始めたロリラード社(のちに「Kent」を世にだす)はニューヨークに達ち、少数の上流階級が顧客だったと想像する。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-30 11:42 | Comments(0)

G.L.ピース: ストラットフォード

a0150949_1724517.jpg


 G.L.ピースは最初に買ったホッドスデライトが吸ううちにおいしくなった。開缶時はお酒の香りが鼻についたが2週間もしたらほとんど抜けたらしい。かなり強いペリク物で、このペリクがなかなかよろしい。ただしベースがケンタッキーバーレーのキャベンディッシュなのが不満だったので調べてみると、バージニア+ペリクのストラットフォードをみつけてこれを買った。
 葉組はレッドバージニアとペリクのみ。そしてこれは旨かった。
 バージニアのやや青臭い、しかし丸みのある味がまずくる。ペリクはかなり少量で海外のレビューではペリクを感じないというのもある。しかし少量でもしっかり主張し、隠し味ではなくくっきりしたミクスチャーになっている。バージニア+ペリクでは桃山のようにかすかものからスリーナンズのように前面にくるものがあるがこれはバージニア味を旨くひきたてていて好感がもてた。
 アメリカの若い会社、マクレーランドとG.L.ピースについて最初のときに感想を書いたが、おなじ感慨があった。このストラットフォードなどはバージニアとペリクの配合の妙に天才的な閃きを感じるし、それは数学的とさえいえる。
 しかしたとえばラットレーのマーリンフレークに何を感じるだろうか。これは現在ドイツのコールハス社が作り、オリジナルはイギリス伝統製法のバージニア葉のみのケーキだったはずだが、いまはフレークで、バージニアのキャベンディッシュ+バージニア葉+ごく少量のペリクでおなじ味をだそうとしている。そしてその総体から感覚できるのはじつに宏大なバージニア葉の宇宙、開高健が「新しい味覚は新しい天体の発見に匹敵する」と書いたあのひろがりだとぼくは思う。吸うたびに何かしら新鮮なおどろきがこめられている。
 この深みはぼくはアメリカ物には感覚できない。イギリス人、ドイツ人とブレンダーが移っても旧世界人にはのっぴきならないこだわりがあり、新世界人はじつに明快に割り切っている。旧世界人のなかでも日本人は、なにしろ豆腐だの蒟蒻だの、わけのわからない、言葉にできない味覚をもっているんだからなおさらである。
 しかし(また、しかしと書くが)バージニア+ペリクという、いわば言語化された味覚の組み合わせに数学的なエロスを発見するアメリカ人の感覚にも捨てがたいものがある。ぼくにしても、ペリクをちょっとやってみたいというとき、ホッドスデライトに手をだしたときが頻繁にあった。
 旧世界人の得体のしれない味覚宇宙、これは人類永遠の魅力だが、新世界人の、すでに存在し、手なづけたものから美を組み合わせていくセンスもまた新しい発見といえるか。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-27 17:07 | G.L.ピース | Comments(6)

パイプタバコの製造 -2

a0150949_2127650.jpg


 イギリスにタバコ喫煙が始まるのは1560年頃、船乗りが伝えたが、1580年頃には広く社会に浸透した。当時のタバコはスペインから輸入され、これは30センチほどの長さのローブタバコ、砂糖、ラム、モラレスなどでたっぷり味つけされたうえに色づけもされていたという。その後1607年にバージニアに植民、タバコ栽培に成功し、初めての"バージニア葉"がロンドンにつくのは1614年だがこちらは乾燥した葉を樽詰めにしていた。以後ロンドン子はスペイン物に見切りをつけ、バージニア葉の流行となる。

 17世紀。イギリスでタバコ産業がまたたくまに成長する。パイプ製造とパイプタバコ製造である。パイプ(当時はクレイパイプ)は前世紀までは手作りだが17世紀には型どりで量産された。1619年のロンドンには62軒のパイプ製造会社があり、パイプタバコを扱う店は7000軒を数えたと記録される。

 樽詰めのバージニア葉は初めは喫煙者が自分で刻んでパイプに詰めた。しかしまもなく販売業者が手をくわえた。パイプ用に裁断した葉はルーズカットと呼ばれ、葉脈は砕かれて嗅ぎタバコに、また一部は加熱圧縮してケーキ状にし、あるいはこれを撚ってロープタバコとした。ルーズカットのパイプタバコを入れるために喫煙者はタバコボックスを必需品とし、これは主にオランダ製で真鍮や銀で精緻な細工を凝らした。

 しかしやがてイギリスタバコの伝統製法となるのはバージニア葉を加熱圧縮してケーキ状にしたものだった。葉を裁断しただけのルーズカットと違い、バージニア葉は加熱圧縮することで味と風味がますし、ケーキ状なら保存・輸送にも適した。ケーキタバコは手頃な大きさにカットしてプラグと名づけて販売した。しかし大きなプラグはバーとも呼ばれ、これはタバコ店の店頭で顧客の好みの大きさに裁断して売り、そのためにプラグカッターという裁断機があった。
 イングリッシュケーキと呼ばれるこのイギリス伝統製法はバージニア葉の味と風味をますために加熱圧縮したものだが類似の製法にキャベンディッシュというのがある。たぶんかなりあとに普及し、オランダやデンマークが発祥地と思われるが、キャベンディッシュという名称は考案者のイギリス人、トーマス・キャベンディッシュ卿(1560-1592)の名にちなむとされる。1585年、リチャード・グレンヴィル卿のバージニア探検のときに彼は船長で、その帰路、タバコ葉を樽詰めする際、砂糖水に漬けたところこのタバコが旨いと評判になったという逸話が残る。しかしこの逸話はマユツバで、この航海の頃はまだバージニアにタバコが栽培されない探検時代だし、バージニア植民地からタバコ葉が船積みされる1614年には彼は世を去っている。百歩譲ってバージニア以外の寄港地でタバコ葉を樽詰めにしたとしてもすでにこの頃はスペイン人がタバコ葉を砂糖やラム酒に漬けて樽詰めしていた。これはぼくの想像だが、例によってイギリス人の貴族気質が我国の貴人の考案といわせたのではないかと、ちょっと微笑ましくなる。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-25 21:30 | Comments(0)

L.A.Poche Perique Tobacco: 10年物ペリク樽、ご開帳ビデオ

a0150949_1623398.jpg


 ルイジアナ州 St.James ParishにあるL.A.Poche Perique Tobacco Factoryはこの3月20日、工場長のCurtis Hymel氏の就業50年を記念して表彰式を行った。
 同社は2005年、D&R Tobacco社のマーク・ライアン氏が買収しがそれについてはぼくのブログの1月28日に「ペリクの真実」「ペリクの真実追加」記事がある。
 表彰式の前日、3月19日、ライアン社長は今後同社のペリク製造は4倍の生産量に拡大すると宣言。記念に10年前に樽詰めした「10年物ペリク」の樽を開けて公開した。
 その模様がビデオに収まり紹介されたのでぜひご覧ください。
 樽詰めペリクはかなり長い葉だと初めて知った。

10年物ペリクご開帳

 同社のこの「10年物ペリク」は「Decade Series Perique」の商品名で2011年から市場に登場するとのこと。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-21 16:26 | Comments(2)

コールハス社: 真相はどうなんだろう?

a0150949_1211629.jpg


 ドイツのコールハス社のサイトにサミュエル・ガーウィズのタバコが掲載され始めた。今月からじゃないかと思う。ときどき見てるが前はなかったような……。SG社のタバコはアメリカの通販会社でここしばらく品切れが続いている。もしかしたら製造販売を委託したのだろうか。ちょっと心配。
 コールハス社は1976年創業の新しい会社で1979年からパイプタバコの委託販売を始めた。1986年、イギリスのRobert McConnell社の機材を買い上げ、ハンブルグ市レミントンの工場に据えて以来自社製造を開始し、McConnll、Solani、ラットレー、アシュトン、ビーターソン、サビネリ各社のブレンドを製造販売している。
 ラットレーのタバコの情報をみるためにたびたびサイトを閲覧していたがSG社はラインナップに入ってなかったと思う。気がついたのはつい最近で、SG社の21種のブレンドがおなじみの50グラム缶でのっている。
 パイプタバコ製造には定評の会社だし、ラットレーについては何の不足もないので仮に委託製造になっても問題ないとは思うがやはり気になるところである。
 真相はどうなんだろう?

コールハス社サイト
Kohlhase & Kopp

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-20 12:18 | Comments(4)

マクレーランド: 5100 レッドケーキ

a0150949_1621967.jpg


 リンクさせて頂いてるブログ「England's best pipe value」のsqさんはバージニア葉の専門家。マクレーランドを知りたいならまずこのあたりからとご教授いただいた。
 バルク販売のみなのでぼくの初バルク購入である。
 名前の通りレッドバージニア単体で、イギリス伝統製法による。つまり葉をまず加熱・圧縮してケーキ状にする。それを小口にわければプラグやフレークになるが、そうはせずに細かく崩し、ほとんどリボン状にした。いまどきこの手のこんだ製法でつくられたこと自体ありがたい。
 2ozのバルク買いでジップロックに収まる。あけると、うーん、噂に高いマクレーランド独特のケチャップの臭い。フロッグモートンではさほど感じなかったがこちらはかなり強烈。しかしこの臭いは火をつけると消えた。
 旨い。いや、これはじつに旨いタバコだった。無着香のストレートなバージニア味。その甘みと酸味があり、青臭さは熱処理のためにごくわずかに残るていど。ラットレーのマーリンフレークに匹敵する軽さ。この軽さはストレートバージニアだけが持つものなんだとはっきり認識した。吸いつづけるにつれてさらにバージニアの深い味わいがじわじわとくる。紅茶にあるタンニンの香りもあった。あたたかく、ふっくらして、炊きたてご飯を味わうような豊かさである。
 ぼくはまだレッドバージニアの特徴を感触するほどになってないがブライトバージニアの黄色葉のつんつんする青臭さとはあきらかに風味が違う。この味がレッドバージニア本来の味としっかり記憶しておこう。
 一つ思うことがある。このタバコは本来ブレンディング用に売り出したもので、ナチュラルの極みだということ。サミュエル・ガーウィズやラットレーあるいはダンヒルのフレークなどのストレートバージニアはこれと比べると味に細工があり、甘み、酸味あるいはスパイシー味など味つけしてある。商品として売り出すにはやはりひと味くわえたいのが人情だろう。海外のタバコレビューを読んでもここにペリクを加えるとか、ラタキアをひと振りするとかブレンドして自分の好みに合わせて吸っているかたも多いようだ。しかしもちろん単体でたのしむかたもいて、いわば塩味もおかずも無しに炊きたてご飯を食べるのはよほどの強者と感心させられる。
 ぼくとしてはバージニア葉本来の広大な宇宙を知るには絶好の逸品と感動した。
 しかし一つ弱点があるのはマクレーランド独特のケチャップ臭である。火をつけると消えると書いたが、じつはフッとケチャップの臭いと甘酸っぱさがくることがある。バージニアの深い味に浸っているときにこれがくると狼狽する。これはマクレーランド全商品に共通なので慣れれば気にならないのかもしれないがぼくにはまだヘヴィだ。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-19 16:25 | マクレーランド | Comments(4)

ラットレー: ブラックマロリー

a0150949_1813730.jpg


 ラットレーのラタキア物、それも50グラム缶は3種あり、前に書いたレッドラパリー、このブラックマロリー、それとセブンリザーブである。このうちセブンリザーブは「一日中吸ってもお口を痛めません」の保証付き、つまり軽口に仕上げてあるそうだがぼくは未体験だ。
 この3種は兄弟ブレンドで葉組はおなじとされ、ラットレーの古いカタログには以下のように表記される。
「レッド・バージニアに加えてシリアン・ラタキア、そして高価なマハラ・デュベク・トルコ葉」
 しかし現在のコールハス社の説明はこうなってる。
「スパイシーなラタキアとカットしたバージニア葉がキャベンデッシュとオリエンタル葉にミックスされた」
 そしてこのキャベンディッシュの表記がレッドラパーとブラックマロリーでは微妙に違い、前者はダーク・キャベンディッシュ、後者はブラック・キャベンディッシュとなっている。
 さて。そこで吸ってみると……。
 缶をあけるとラタキアの香りにやや脂っぽい匂いがまじる。これはまぎれもないブラック・キャベンディッシュの匂いだ。
 そして火をつけると、丸い、じつに丸い。レッドラパリーの鋭さがない。そして甘みと酸味がおだやかにきてオリエントはかなりひっこんでいる。レッドラパリーにはバージニアの青臭さがややあるが、こちらは感じない。
 もし葉組がおなじとすると、バージニアのキャベンディッシュとオリエントの配分が逆転し、レッドラパリーはオリエントが強く、ブラックマロリーはキャベンディッシュが強い。しかしキャベンディッシュにも違いがあるとすると、ブラックマロリーはしっかりストーブされたブラック・キャベンディッシュ味だと思う。
 総じて、ブラックマロリーはおだやかなタバコである。静謐なタバコ、とむつかしい漢字を当てはめたくなる。バージニアの甘みと酸味もおだやかだし、オリエントもおだやか。じっと吸いつづけるうちにじわじわと味がでてくるじつに謙虚なタバコだと申し上げたい。
 ぼくのように年寄りでしみじみたのしみたいならブラックマロリーがいいが、ガツンとくる強い味が好きならレッドラパリーがいい。ただしダンヒルのラタキア物はもっとくっきりしていて強い。このあたり、もしかしたらイギリスとスコットランドの民族の気質が出ているのだろうか。
 そうそう。ラットレーのタバコの命名はじつにユニークでスコットランド人独特の(日本なら沖縄人のように)謙虚ななかに鋭い人間洞察を含めている。レッドラパリーはラットレーのカタログには「ボヘミアン、放浪者のこと」と婉曲に書いているがじつはアイルランドの反逆者の一団をさす言葉でラットレーが密かに信奉していたのではないかとも思ったりする。ブラックマロリーのマロリーは英語のニュアンスでは接頭語のmal-に「悪、不幸」の意味がこめられ、malice(悪意、敵意)のように暗い言葉を感触する。しかし一方で名前のmalloryはフランス語源で「美」に通じるというし、このあたりぼくはなにかしら複雑なスコットランド気質を感じてしまう。マ、ぼくの思いすごしかもしれないけど。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-15 18:06 | ラットレー | Comments(4)

パイプタバコの製造 -1

a0150949_2211392.jpg


 日頃たのしんでいるパイプタバコはどう作られるのか。
 ネットには厖大な情報があふれていてありがたい。お勉強したことをまとめてみた。

 1492年、コロンブスが北アメリカに達し、先住民の吸うタバコをヨーロッパに持ち帰った。

 先住民のタバコ喫煙法はじつにさまざまで、いまのタバコ喫煙のすべてにわたる。ヨーロッパ人はただこれを工業化しただけだ。マ、文明なんてそんなもの。人類10万年の歴史のなかで体験され、熟成された文化が500年ぽっちでは変わりようもない。ヨーロッパ人が見たのは、タバコ葉を噛む(噛みタバコ)、粉にして鼻から吸う(嗅ぎタバコ)、巻いて吸う(葉巻)、道具で吸う(パイプ)、分類すれば4種になる。

 噛みタバコはもっともシンプルでただ葉を噛めばいい。嗅ぎタバコは葉をすりつぶして吸う。数枚の葉をロープ状に撚ると保存に適した。細く撚ればいまの葉巻になるし、太く撚り、吸うときに端を刻めば噛みタバコにもまたパイプに詰めてもいい。現在のロープタバコあるいはツイストタバコである。加熱圧縮するプラグタバコの原型もある。大きな丸太の幹に穴をあけ、タバコ葉を押しこむ。上からきっちり栓をして数ヶ月おき、丸太を割ると固形物になっていて樹液が沁みて味わいもよい。この固形物は端を欠いて噛みタバコ、細かく刻んでパイプタバコになる。
 ヨーロッパ人はこの未知の文化を持ち帰り、自国に伝えた。スペインがもっとも早く、すでに1525年にスペインの船乗りがクレイパイプで喫煙した記録もあり、1530年にはスペインの下層階級に葉巻喫煙がみられたとされる。16世紀を通じてスペイン・ポルトガルの船乗りに喫煙の習慣がひろまり、ヨーロッパ全土に伝播した。イギリスには船乗りにより1560年頃紹介された。

 16世紀のヨーロッパでスペイン、ポルトガル、フランスなどラテン語圏には葉巻喫煙が広まったがイギリスはパイプ喫煙を好んだ。アメリカ大陸で育ったタバコ葉は樽に詰め、帆船でスペインに運び、ここからヨーロッパ各国に輸出される。イギリスも最初このスペイン物に頼っていたがのちに北米のバージニアに植民、タバコ栽培に成功し、1614年に初めての作物が到着してからは自国製に切り替える。翌年の1615年、ロンドンにはタバコ葉を売る店が7000軒あったというからタバコ喫煙文化の広がりは急速だった。

 17世紀はヨーロッパ全土がパイプをくゆらせる世紀となる。
 当然パイプタバコの製造が産業となるが、それは次回に。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-07 22:14 | Comments(6)

サミュエル・ガーウィズ:  1792フレーク

a0150949_21351281.jpg


 またすばらしいタバコに出会えた。
 サミュエル・ガーウィズ社の創立が1792年、創立年号をネーミングしたこのタバコには思い入れがあるんだろうと想像したいところである。じつはこのタバコ、缶入りのほかにもともとのケーキも「COB」プラグとして販売されている。つまりイギリス伝統製法そのままにバージニア葉を加熱圧縮してケーキにし、それを小口にカットしたものが「COB」、さらにそれをフレークにスライスしたものが缶入りになる。
 葉組は、社の説明ではバージニア+オリエントとされ、タンザニア葉が混じるとされている。しかしぼくの味覚はそこまで感知できなかった。良質のストレート・バージニアのプラグ・バージョンという印象。
 缶を開けると、ジャーマインのミディアム・フレークに似たタコ糸状の細く切ったフレーク。適量をつまんでボウルに詰めればいいから凄く楽だ。やや湿り気があるが火つきは極上、火持ちも最良で、自然に燃えていくのにまかせればいいからエラク長時間吸える。
 ケーシングにトンカビーンズ(トンキン豆)が使われている。これは桜餅の風味といわれ、化粧品に使われるそうだ。ごく上品な甘さで、おしつけがましくなくさらりと舌にのる。「しらけさせる甘み」という感触。良質のキナコに似ているか。
 ベイクトしたバージニアだからヘイタイプとは異なるが、しかしどこかに青臭さがのこり、それとトンカの甘みのブレンドぐあいがじつに絶妙だ。甘さも、バージニアの青臭さと酸味も、遠くにしっかりかまえていて前面に主張してこないが、いわばそのエコーの響きがうつくしい。
 タンザニア葉はぼくの味覚では感知できないが、このタバコは少々吸いこんでも熱くならず、舌焼けもまったくない。もしかするとこれがタンザニア葉のご利益かと思われるが、まだまだぼくは勉強不足ですね。
 ゆらゆらと自然に燃えるにまかせて吸っているとモーツアルトを聞くような優雅な気分になるが、ちょっと吸いこむとバージニアの旨味がどッとくる。こういう至上の味はアメリカやデンマーク、ドイツ、どの国にもない、イギリス・タバコにしかない伝統の風味と思える。
 いやあ、うれしい出会いだった。

[PR]
by jinsenspipes | 2010-05-04 21:39 | サミュエル・ガーウィズ | Comments(22)