Jinsen's パイプ

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マレー・サンズ&カンパニー: エリンモア(Erinmore)

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 ガーウィズ・ホガースのブロークンスコッチケーキがすっかり気に入り、毎日やってたら2週間で空になった。バージニアの繊細な味に加えてKendal Scentの香る甘口の味がなんともすばらしい。とにかくひと缶あいたのでつぎにエリンモアのフレーク版をあけてびっくり。なんとそっくりの味わいなんだ。
 エリンモアはいまは亡きMurray Sons & Co.の看板ブレンドだった。この会社はダンヒルたばこを長く製造し、今はデンマークのオーリック社が作るがひと昔前のマレー社製ダンヒルは愛煙家の垂涎の的である。アイルランドのベルファーストで1810年に創業した老舗で1981年、ダンヒルがたばこ部門を切り離した際に全ブランドをマレー社に移管した。ダンヒルの技術者も全員マレー社に移動、質のいいダンヒルたばこを送り出すが、1999年にBAT社(ブリティシュ・アメリカン・タバコ)に買収され、2004年に廃業した。そしてマレー社が作るダンヒル、エリンモアなどのブレンドはすべてBAT傘下のオーリック社に移管された。エリンモアはマレー社が1920年代に発売したがいまのはオーリック製なのである。しかしヨーロッパ、とくにイギリスのエリンモア贔屓は継続し、オーリック社製になっても品質は落ちずいまでもファンは多い。オジイちゃんの代から我が家はエリンモアですというイギリス人をみかけることもある。
 葉組はバージニアとバーレー。缶をあけると、珍しや、4センチほどの短いフレークがびっしり。ふつうのフレークは缶の長手方向に切るがこれは短い辺の長さで羊羹のように切る。そして甘い香りがムッとくるがこれがGH社のスコッチケーキに酷似する。はて、これは? よくよく考えるうちにこの香りは茴香/アニス系の香りではないかと思うようになった。
 茴香(フェンネル)とアニスはどちらも香辛料に使われ香りが似ている。茴香は漢方薬の安中散の主成分だから我が家の漢方胃腸薬でおなじみである。似た香りを持つものに中華料理に使う八角(スターアニス)がある。じつはこちらは別種の植物だが香りが似ているのでアニスの名をつけている。
 余談だが、ぼくは中華料理を作るのが趣味で毎日中華鍋を振っているが、お手本にしている新宿の汚い中華屋のラーメンの味にどうしてもわからないひと味がある。あるとき思いついて八角(これはふつう肉の臭み取りに使う)を買ってみたら、ピンポーン! ラーメンに八角を入れてたんだ。以後我が家のラーメンは八角入りとなった。
 ぼくがKendal Scentとしてきたのあの香りは茴香/アニス/八角系なんじゃないかと思うようになった。前にエナーデールを書いたときおばあちゃんの箪笥をあけた匂いと書いたが茴香や八角は線香の主成分でもあるからあながち間違いではない。しかし同時に気づいたのだがラットレーのマーリンフレークなど吸っているとフッとこの香りがくることがある。バージニアのみ、無着香のたばこだからもしかしたらバージニア葉にこの手の香りがあるのかとも思う。いやあ、ぼくの嗅覚もだいぶ開発されてきた。
 しかしここに大問題がある。アメリカ人のレビューを読むとこの香りを「典型的イギリスたばこの香り」とする評者が多い。その一方でぼく同様Kendal Scentとするレビュワーもいる。しかしマレー社はアイルランドの会社でエリンモアはアイリッシュたばことして有名だし、例のGH社のスコッチケーキはわざわざスコットランド風とうたっている。しかもだ。スコットランドのラットレーには際立ったこの香りはなく、バージニア葉固有のものと思われる香りはわずかにあるがエリンモアの強い匂いとはほど遠い。ついでに書くがエリンモアの香りは茴香/アニス/八角系にプラスしてリコリスの甘みが強く、ケンダルたばこもまったくリコリスの甘みを加味している。どうなってるんだ。
 UKのたばこ通販会社の解説を読んでいたら興味深い一節があった。「エリンモアは大英帝国で栽培された葉のみ使った最初のパイプたぱこです」というのだ。つまりアメリカ産のバージニア葉でなく、1900年代初頭の大英帝国、そのアジア・アフリカにわたる植民地でとれたバージニア葉でブレンドしたという。真偽のほどはわからないが、ここにもやはりイギリスたばこでござい、というお墨付きを感得できる。
 もう一つ、エリンモアを語る識者はかならずコンドルとセントブルーノを引き合いに出してくる。この2種はイギリスでもっとも売れてるパイプたばこだが、それとこの茴香/アニス/八角の香りはどう関係してくるだろうか。このあたりはコンドルとセントブルーノを吸ってみるとわかることかもしれない。じつは今、手許にUKの通販会社から届いたその2種のたばこがあり、エリンモアを終えるとつぎはそれになる。ちょっと期待感が高まった。
 このレビューはなぞなぞみたいになっちゃったが、肝心のエリンモアの味はというと、ぼくは大層気に入った。バージニアの深みは充分もちつつバーレーで味をやわらげ、そこに茴香/アニス/八角系の甘い香りがくわわってもうしぶんない喫味である。

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by jinsenspipes | 2011-03-25 11:53 | マレー・サンズ&カンパニー | Comments(12)

マクバレン: バーレーロンドンブレンド ( Burley London Blend )

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 ぼくはバーレー葉に明瞭なイメージをもっていない。バージニア葉はそれなりに経験してきたので味覚も嗅覚も鍛えてある。これじゃいけないと、いいバーレー葉を探すうちにこれが見つかった。
 デンマークのマクバレン社はバーレー葉についてはエキスパートでバージニア・オンリーのイギリスに対抗してバージニア+バーレーのキャベンディシュで名をあげた会社である。しかしこのブレンドは1965年に発表され、有名なバージニアNo1につづいて単体の葉の開発に熱心だった頃の傑作とぼくは信じている。
 バーレー葉100%。カタログでは木樽につけて熟成したとある。着香なし。ご覧のようにブロークン・フレーク状なのでたぶんまず加熱圧縮してイギリス風ケーキを作り、それをほぐしたものと思われる。イギリスの会社ならブロークン・ケーキとかブロークン・ブラグと名づけただろう。またブレンド名の「ロンドン」は無着香ということもあってイギリス風に製造したたばこというつもりだったのではなかろうか。
 このたばこでぼくは初めてバーレー葉の味を堪能できた。じつは若い頃ハーフ&ハーフとかプリンスアルバートとかバーレー葉は体験ずみなのにその後はバージニア一辺倒で忘れかけていた。で、1年ほど前、思い出すために吸ってみたらあまりにPG(プロピレングリコール)の臭いが強く、肝心のバーレー味はよくわからなかった。
 マクバレンのバーレーはじつにまろやかである。あたたかく澄明、ごくわずかに甘みと酸味があり、それもかなり控えめ。ときどきややトーストした気配を感じ、そういうときは紙巻きたばこを連想した。もともとバーレー葉は紙巻きたばこ専用に開発された葉だしアメリカの紙巻き独特のトーストした匂いはまったくバーレー葉の香りである。しかし紙巻きにはこのまろやかさや甘み、酸味は無くかわりに紙の匂いがきてしまう。やはりストレートに吸うのはパイプに限る。
 海外のレビューだとバーレー葉の描写にはnuttyという語が使われる。木の実風味というていどの意味だが、たしかにバージニア葉のほうは濡れていて含みが多いが、バーレー葉は乾いた、ドライなつやつやした印象が強い。ナッツを食べる感触がバーレー、おつゆたっぷりの果実を食べる感触がバージニアといえるだろうか。
 また糖分たっぷりのバージニア葉には例の独特のbite感、舌や口内がひりひりする感じがあるが糖分がほとんど無いバーレーにはそれがなくてじつにクール・スモーキングできる。もっともぼくなどはバージニアに慣れているのでbite感があると安心しちゃったりするのだが。
 このブレンドは100g缶で売られているがほかにバルク販売もあり、ぼくはアメリカの通販会社からバルク50gを買った。念のため海外のレビューを読んでみたら、これが100g缶のレビューなのだが、たばこの解説にわずかにバージニアが混ざるとある。さらにチョコレートのトッピングが加わるともあったが、さてどんなものか。ぼくはその香りは感じなかったし、バージニアも感覚できない。レビュアーのなかには「100%バーレー・オンリー」と書いたかたもいるのでぼくは自分の感覚を信じることにする。
 チョコレート風味についてはもともとバーレー葉はわずかこの香りがするといわれている。バーレー葉は糖分が皆無に近く、甘みもない。しかしこのブレンドには上品な甘みがある。もしかしたらやはりわずかのトッピング(あるいはケーシング)かなされているかとも思うがぼくはそこまで感覚できなかった。
 このたばこと前後してぼくはサミュエル・ガーウィズの「ケンダルクリーム」を買いそれについては前に書いた。そちらはバーレーとバージニアの葉組で、まだ少しのこっているので吸ってみると、やはりバージニア葉の存在を感じた。これもおいしいたばこでとくにKendal scent(ケンダル芳香)が素敵だが純粋にバーレーをたのしむのはマクバレンのこのほうが数段上である。しかしマクバレンを吸ったおかげでぼくはバーレーの旨さを確認できたので「ケンダルクリーム」のたのしみ方もまた増した。
 いい体験だった。

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by jinsenspipes | 2011-03-10 17:49 | マクバレン | Comments(4)

ガーウィズ・ホガース:  ロープたばこ3種

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 ロープたばこはパイプたばこの歴史でもっとも古い形態である。
 コロンブスがアメリカ大陸に達してたばこをヨーロッパに紹介したが、真っ先にこれを好んだのは船乗りだった。ラム酒に劣らず強い酩酊感のあるたばこは荒くれ船乗りのまたとない慰安になる。しかし長い船旅でもたばこ葉を乾燥させず、香りを逃さないためには工夫が必要だった。まず考案されたのがお手のもののロープに撚りあげる方法である。
 船乗り達はたばこ葉にたっぷり海水、ラム酒、甘味剤を染ませてロープに撚りあげた。やがて喫煙がヨーロッパ人の嗜好品となり、産業に発展したとき、このロープたばこはパイプ喫煙の標準形態となるのだ。
 1792年、現存する最古参のたばこ会社、サミュエル・ガーウィズ社の創立時、メイン商品はこのロープたばこで、おそらく当時は無数のロープたばこ製造会社があったことだろう。ロープたばこは商品名として、twist、pigtail、bogieなどと呼ばれるが、SG社とその兄弟会社ガーウィズ・ホガース社のカタログにはいまでもこの名が読める。SG社の創立から200年、その前のコロンブス時代からすると500年の歴史のあるたばこがいまでも吸えるのだから驚きだ。
 ぼくの関心もまったくそこにあった。たまたまこのブログにコメントを寄せてくださるmifuneさんにイギリスの通販会社をご紹介いただいたのでさっそく注文することにした。カタログを見るとガーウィズ・ホガース社のほうが商品が充実し15種のロープたばこがある。そのうち3種を選び、バルク(秤売り)販売なので、一番少量の25gずつを注文した。

 Kendal Brown Bogie(通称Happy Bogie)ブラウン・ボギー(写真の一番下)
 Kendal Black Bogie ブラック・ボギー(真ん中)
 Kendal Black XXX ブラックXXX(一番上の太いの)

 掲載した写真の量がそれぞれ25gである。ただしブラウンとブラックは秤量が少なかったのかおまけの小片が2、3入っていた。
 おわかりと思うがロープたばこは葉巻とよく似ている。外側を薄いラッパーでくるみなかにフィラーが巻いてある。じつはたばこの歴史上、この船乗りのロープたばこはのちにパイプ用、噛みタバコ用、葉巻と、わかれて発展する。これがすべてのたばこの元祖なのだ。
 さっそく吸ってみた。
 まずブラウン・ボギー。カタログの解説にはナイフで薄切りのコイン状に切り、ボウルに重ねればいいとある。ロープの径はおよそ1cmで、試しに厚さ1cmだけ切り出し、40年愛用のスタンウェルに詰めてみた。スタンウェルのボウル径は18mmなのでスカスカかと心配したが、切り出すとき薄いラッパーはばらばらになり、なかのフィラーもぐずぐず、入れてみるとちょうどいいぐあいである。1cm厚を3個切り出して詰めるとボウルトップまでいっぱいに収まった。
 着火にやや手間どるが、火がつくとあとはおだやかに燃えつづける。
 うっ。強いッ! 超ストロング! たちまちニコチンがからだを駆けめぐり、お目めパッチリ、すばらしい酩酊感である。なるほど荒くれ船乗りにはこれでなくてはいけないのネ。
 バージニア葉オンリーのはずだが日頃のあの青臭さや酸味、甘みはごくわずかでもっぱら強烈な「たばこを吸ってます」という感覚がきた。ウン十年前に初めてたばこを吸ったときの衝撃がもどってきた。日頃やってるダンヒルやラットレーなんぞこれと比べるとお菓子を食べてますという感じ。香りがどうの、酸味がどうのという前に「たばこ」の感触がある。
 3種は3日にわたって吸いくらべた(1日に3服はとても無理)。
 もっとも原始的なのはブラウンで一番強烈、ブラックはやや加熱加工してあるようで香りがあり、幾分マイルド(といってもかなりな強さだが)ブラックXXXも同様だがこちらは径が2cmほどでヨーロッパの標準パイプ径の1インチ(25mm)にはちょうど収まりがいいのだろう。
 海外のレビューを読むと、ロープたばこは葉巻と喫味が似ていると書く人がいる。また切り出しにはシガー・カッターがいいらしい。ぼくは葉巻はやらないのでこのあたり不明だが、紙巻きに似てるという感じはあった。つまりニコチン依存者にとっては味わうより何よりまずニコチンの酩酊感がこなくてはいけない。利くゥ、という感じがなければ吸った気にならない。昔の船乗りにとっては何よりこれが大事だったのだと思う。ぼく自身、外出時は紙巻きを吸っているが、第一の目的はニコチン補給である。
 しかし現代のパイプ愛好者は味や香りをたのしむほうに向いている。そうなるとロープたばこの需要は減少するばかりかとも思われる。
 このたばこはぼくの常喫銘柄にはならないと思うが、パイプたばこの原点を知る、いい勉強になった。

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by jinsenspipes | 2011-03-07 21:38 | ガーウィズ・ホガース | Comments(10)