Jinsen's パイプ

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オグデン: セントブルーノ(St Bruno)

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 コンドルと並ぶイギリスの代表的パイプたばこである。
 オグデン社の創立者、トーマス・オグデンは1860年にリバプールにたばこショップを開店した。ビクトリア女王時代のリバプールは屈指の港町、また商業の中心地で、パークレーン街にはたばこショップが軒を連ねていた。1870年には工場を開設、1896年にこの銘品、セントブルーノを発売した。しかしまもなくアメリカのたばこ王、ジェームズ・デュークのたばこ戦争が始まり、著名なオグデン社はアメリカ資本に買収された。このあたりの話は凄くおもしろいんだが長くなるのではしょるとアメリカ攻勢に対抗してイギリスでインペリアル社が設立され、その後アメリカ会社と和解が成立(ここで設立されたのがBAT社だ)、オグデン社のブランドはインペリアル社の所有となった。なのでイギリスでもセントブルーノはインペリアル製造とされることが多い。
 長い歴史と知名度をもつセントブルーノだがどうやらいまはデンマークのマクバレン社が製造しているらしいという話だ。しかし永年親しんできたイギリスの常喫者から苦情も出ないところをみると味は落ちてないらしい。ただ昔は缶入りだったがいまはポーチのみでそれが残念という声はある。いまあるのはポーチ入りのフレークとレディラブドで、ぼくは25gのレディラブドのポーチを買った。
 あけるとやはりおなじみの香り。コンドルよりややスパイシーだがほとんどそっくりだ。細かいリボンカットでかなり湿り気をおびているところもおなじ。火をつけるとコンドルより少し酸味が強く、スパイシーなので、全体の印象はコンドルがマイルドで一般向き、セントブルーノがややシャープで好事家向きだろうか。かろうじて見分けがつくていどである。
 しかしこのたばこが1896年発売とすると20世紀初頭のコンドル、エリンモアより古く、ぼくが知るかぎりではこの手の茴香/アニス系のたばこの最古参となり、イギリスたばこ特有の香りの先陣になるかと思う。コンドルの記事に書いたがアメリカ大陸から樽詰めできたたばこ葉は水とこの茴香/アニス系の香味料(あるいは別の香味植物)で「戻され」それがイギリスたばこ独特の香りとなった。おそらく当時は無数のたばこ会社がこの芳香を香らすパイプたばこを作っていたのだろうし、セントブルーノはその競合のなかで生きながらえ、名声を確立したと想像できる。
 さてこの香りがサミュエル・ガーウィズやガーウィズ・ホガースなどケンダル地方のたばこにも感覚できるのはやはりイギリスたばこの伝統によると思われる。しかし根はおなじでもケンダルたばこの香りはやや異なる。このあたりは植物香味料に独自のものを使って地方性を強調しているのだろう。
 ガーウィズ・ホガース社の代表商品、エナーデールの説明におもしろい記事がある。
「(このたばこは)アーモンドの風味をベースにフルーツやバニラの香り、そして『イギリスタイプ』の香りを加味し、とくにここにある典型的な『イギリス』の香りは我国のベストセラーたばこであるコンドル、セントブルーノと共通するものがあります」
 自社の商品説明に競合他社商品名を引き合いにだすのは異例だが、いってみれば地ビールの説明に「当社の商品はキリンビールの味と類似してます」といってるようなものだろう。エナーデールのこの記事は「イギリス伝統の香りはしますがそれ以上に素敵なプラスアルファが香る逸品です」といいたいのだ。
 ケンダルたばこからエリンモア、コンドル、セントブルーノと続いてぼくのイギリスたばこ巡礼もどうやらひと区切りついたようだ。じつはいま無性にダンヒルのロイヤルヨットが吸いたくなり、昨日新宿のたばこショップに駆けこんできた。ムムム。旨い。無条件に、旨い。しかしここにはそのイギリスの香りはない。ダンヒルにもないし、ラットレーにもない。さて、このあたりはどういうことになるのか。

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by jinsenspipes | 2011-04-19 16:23 | オグデン | Comments(6)

ガラハー: コンドル(Condor)

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 イギリスで売上NO1のパイプたばこである。大手タバコ会社ガラハー社の看板商品でイギリスのパイプたばこ売上のほぼ50%を占めるという。イギリス国内ならスーパーでも駅の売店でもどこでも買える。
 ガラハー社は1857年、北アイルランドのロンドンデリー市で創業。イギリス最古参のピッグカンパニー。現在世界のメジャーたばこ会社の5本の指に入る(1位はフィリップモリス、2位BAT、3位JT、4位インベリアル)。ご存知と思うがガラハー社は2007年に日本のJTが買収したからいまはJTの子会社になるわけだがこれからどうなるのか、ちょっと気がかりではある。
 コンドルは20世紀初頭に発売され、以来イギリスのパイプたばこの代表なので、期待充分で吸ってみた。
 ぼくが買ったのは「Original Ready Rubbed」 25gのポーチである。封を切ると、うむ、やはり予想通り茴香/アニス系の甘い香りだがややスパイシーである。シャグに近いくらい細かいリボンカットでかなり湿り気があるから詰めるのも楽だし火つきも抜群。
 吸ってみると、ああ、やはりこれがイギリスのパイプたばこの伝統だったのだ。エリンモア、スコッチケーキ、エナーデール、すべてに共通する茴香/アニス系の甘い香りがバージニア葉特有の味にまじる。別のいい方をすると、良質のバージニア葉に甘い香りがかぶさり、それがじつに心地いい。ただしかなりスパイシーで、エリンモアのすっきりした味とは異なる。むしろエナーデールに近いだろうか。お線香の香りがするのだ。このあたりがコンドルの「売り」になるだろうか。
 火つきが抜群と書いたが、火持ちもよくて、再着火するまでもなく一気に吸いきれる。つまり一度火をつければさいごまでこの味が持続し、途絶えることも味が変わることもない。これもまたNO1の所以になるのだろう。まったく吸いやすいたばこである。イギリスのパイプ喫煙者のほぼ半数がこれを常喫している理由もよくわかる。
 ぼくはこれまで一貫してこのイギリスたばこ特有の香りを茴香/アニス系としてきたが、断定には少し不安がのこる。あるいはバージニア葉固有の香りに甘みづけのリコリスが加味されただけかもしれないと思ったりもする。海外のレビューでも茴香/アニス系と指摘したのはほんのわずか、ほとんどの評者は「イギリス独特のフローラルな香りづけ」で片付けている。ぼくの感覚がもう少し開発されれば違う発見もあるかと思うが、いまはそう思われるのでこのままにしておきたい。
 ところでこの香りだが、いわゆる着香たばことは異なるものである。
 イギリスのたばこ製造の歴史をみるとこの国では1986年(つい最近だネ)まで添加物(着香)を禁止していた。ではこの香りはどこからくるかというと、たばこ製造過程の第一段階、たばこ葉の「戻し」の工程なのだ。アメリカ大陸から樽詰めされてきたたばこ葉はがちがちに固まっている。そこで樽からだしたたばこ葉に水をかけてしなやかな葉の状態に「戻す」。法律は水のほかは使用禁止としていたが、1863年(150年前だ)諸外国のキャベンディッシュ攻勢に対抗して高額の課税を課すかわりに甘みと香りをつける植物香味料の使用を許可した。水とまぜて使われた植物香味料の代表はリコリスで、ほかにも類似のものがあったがそれは製造会社の秘密とされた。それが何だったか、歴史は何も語ってくれないが、あるいはそれが茴香/アニス系の植物香味料だったかもしれないし、それに近い別種のイギリスの植物だったかもしれない。アメリカやヨーロッパ諸国の「着香たばこ」は製造段階のもっとあと、キャベンディッシュのように加熱プレスする段階でふんだんに味つけされるからこれとは別種であり、そのやり方はイギリスでは1986年まで許されなかった。
 以来、リコリス+サムシングのほのかな香りがイギリスたばこにまといつくことになった。コンドルの発売が20世紀初頭、エリンモアも1920年代とされるからほぼ同時期である。おそらくどちらも典型的なイギリスたばこ、あくまでも非着香たばこの良品を世に送り出すつもりだったのではないか。ぼくはそう思う。

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by jinsenspipes | 2011-04-07 22:17 | ガラハー | Comments(0)