Jinsen's パイプ

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レイン: 1Q ( Lane: 1Q )

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 レイン社は永年にわたりダンヒル・パイプたばこのアメリカ代理店だったが、2008年、販売権を失い輸入停止、ためにアメリカでは昨年までダンヒル・パイプたばこが買えなかったという事情がある。パイプたばこと葉巻の販売会社だが1976年(1974年とも)ヒット商品、キャプテンブラックを製造発売。これがアメリカでもっとも売れるパイプたばことなった。ある統計だと、キャプテンブラックはアメリカのパイプたばこ総売上の12%、レイン社製造の全商品の売上(Smoker's PrideブランドやSir Walter Raleighたばこなどがある)は44%にもなるという。なんとまァ、アメリカのパイプたばこの半分を作っている会社だ。
 バルクたばこも製造し、もっとも有名なのがこの1Qである。ところでキャプテンブラックは5タイプあって名品はレギュラー(白)、ロイヤル(青)、ゴールド(金)だが、情報通によるとこの1Qバルクたばこはキャプテンブラックの青に、RLP6は白、MY1999は金と同等品だそうだ。ぼくは前にポーチ入りの白を買い、あまりにPG(プロピレングリコール。化学保湿剤)臭がきついので辟易したことがあるがバルクはやや控えめだというので試しに買ってみた。
 2種のキャベンディッシュの葉組で、黒い葉と赤い葉がまじり、ほとんどシャグといいたい細かい刻み。やはりPG特有の湿り気が手にベタつくが、詰めるのも火つきも楽ちんで、火持ちもいい。評判通りバニラの香は強いが、もう一種、砂糖を焦がしたような甘い香りがある。料理やお菓子作りに使う焦がし砂糖である。このバニラと焦がし砂糖のまじりぐあいはなかなかよろしいが、そこにPG臭がくると、いけない。しかしPG臭はだんだん薄れてくるので中盤以降はやや楽になる。
 問題は、たばこ葉の味がほとんどないことだ。バージニア味もバーレー味もこない。ひたすらバニラと焦がし砂糖の甘ったるい香りがくるだけ。そりゃ心地いいことはいいがこれじゃたばこ吸ってる気がしないじゃない。キャプテンブラックやこの1Qはアメリカ人しか吸わないが、ヨーロッパ人も好むアンフォーラだと、奥ゆかしい香りと甘さのなかにくっきりとバージニア葉の味がくる。セイルにしろエリンモアにしろヨーロッパの着香物は本来たばこ葉の味わいを助ける目的で香りづけをするがアメリカたばこは違うようだ。
 ある海外フォーラムにこんな記事があった。
 アメリカ人のパイプ喫煙者がイギリスに旅し、勉強にと湖水地方のSG社とGH社、ジャージー島のジャーマイン社を訪ね、重厚なたばこの味わいにしばしひたってきた。帰国し、ふと以前やってたレイン社の1Qを吸ったとたん、ああ、何とスムース! 舌焼けもなく、仕事しながらついでに吸っても消えることなく、香りも最高! オレが好きなのはやはりこれだったと再認識した。
 うーん。これがアメリカのパイプ喫煙者の正直な告白なんだと思った。アメリカ人の記事はどれも、火つきのよさ、舌焼けしない、ついでに吸っても消えない火持ちのよさ、甘い香りを絶賛する。「フレンドリーたばこ」と評する論者もいた。たばこは基本的にニコチンの摂取だから、手早く、心地よく、ニコチンを吸収できれば「フレンドリー」だというのだ。
 ヒッチコック監督の映画「泥棒成金」ではアメリカの石油富豪の母と娘が世界漫遊の途で南仏の豪華ホテルに宿泊する。レストランで豪勢なフランス料理を注文し「飲み物は」と問われて「バーボン」と答える。金はごまんとあっても、何年ものが出来がいいとか、抜いたコルクの香りを味わい「bien!」というような手間ひまかかるワインなどまっぴら。呑めばたちまち酔えるバーボンこそ酒だし、私のお友達だという。短い逸話だがイギリス人のヒッチコックがアメリカ人をちくりと刺した名シーンだった。
 酔うために呑むのだからバーボンがてっとり早くていいというアメリカ人、おなじ酔うのでも酔い心地、利きぐあい、そこに至る手間ひままでも楽しむヨーロッパ人。パイプ喫煙にも違いがでてくるモンですね。日本人はといえば、お茶にしろ、香にしろ外国人がみればわけのわからない手間のかけようによろこびを感じる人種だからとてもアメリカ人にはついていけない。
 ところで、余談だが、レイン社はダンヒルのA21000、A30000というバルクたばこを発売している。このA21000はIQだそうだ。こんな甘いたばこをダンヒル商品として売り出す会社も会社だが、それを買う人がいるのもふしぎだね。
 蛇足。レイン社は昨年、デンマークのSTG社に買収され傘下におさまる。STG社(スカンジナビアン・タバコ・グループ)はオーリック社を買収し、スウェデイッシュ・マッチ社と統合したビッグ。これでダンヒルもボルクムリフもキャプテンブラックも手の内に収めたことになる。

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by jinsenspipes | 2012-03-29 17:53 | レイン | Comments(19)

ジャーマイン: プラムケーキミクスチャー ( J.F.Germain & Son: Plum Cake Mixture )

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 これまたユニークなたばこである。
 イギリスの老舗3会社、サミュエル・ガーウィズ、ガーウィズ・ホガース、ジャーマインのうちこのジャーマイン社はやや特殊な位置にある。所在地は英仏海峡のフランスのごく近く、ジャージー島で、この島はイギリス(UK)には所属せず、イギリス王室属領という特殊な地位で、外交など対外的にはイギリスだがイギリスの法律は適用されない。ほとんど独立国とおなじで独自の政府、独自の法律をもつ。ジャーマイン社の創業は1820年、自社のたばこ製造のほかに委託製造も引き受け、ビュテラのエソテリカ、最近はバルカンソブラニーの復刻版が評判になった(もっともこれは1978年からジャーマインが製造してるそっくりさんのラベルを変えただけというのが真相のようだが)。
 このたばこは前から気になっていた。プラムは日本人の感覚だと梅になる。厳密にいうと日本の梅は特別の品種で、英語でも「ume」とされるらしい。またプラムケーキはイギリスでは干しぶどう入りのケーキでこのあたり梅とはだいぶかけはなれてくるがぼくは梅で通すことにした。マ、嗜好品の世界だから思いこみも許されるよネ。パッケージデザインもユニークでイギリスたばことしては異彩を放っている。
 期待して缶をあけると、ああ、やはり梅を連想させる酸っぱい香り+なんともいえない奥ゆかしい、上品な香りがある。いわゆるイギリス香とも違う、なんというか、日本の昔の旧家のふすまあたりに漂っているような香りである(変なたとえだけど)。
 葉は、バージニアの黄色葉と、灰褐色のバーレー、ところどころに黒いものがまじり、キャベンディッシュかと思ったがじつは違うらしい。極細のシャグでやや湿り気がありびっしり収まっていた。
 火をつけると、バージニアの青臭さに梅の酸味、わずかの甘み、すばらしい。火つきもいいが火持ちがじつによくてまず再着火せずにさいごまでいける。しかもじつにクールだ。たまたまラットレーのマーリンフレークが空いているがそちらはバージニアたばこらしく気を許すと熱くなりがちだ。ゆっくり吸うと宏大なバージニア世界が広がるがちょっと火種を大きくすると焦げ臭くなることがある。しかしこちらは冷ややかといいたいくらいクール。
 類似の体験はSG社のチョコレート、GH社のボブズチョコレートにあった。そちらはラタキアを加えてクールスモーキングを実現していたがこちらはどうなんだろう。チョコレートたばこの甘い味と、プラムケーキのやや酸っぱい、いわば梅干し飴みたいな味は両極端だがどちらもクールである。
 葉組を調べてみると、社の説明ではバージニア葉各種が80%、のこり20%の黒いのはキャベンディッシュではなくバーレー葉を熱処理した特殊なたばこでこの会社だけが作る秘密の製法によるとある。またユニークな香りはジャージー島があるチャネル諸島にしかない特別のものと、その独自性を誇示している。この葉組の説明だが、缶に印刷された記事には「キャベンディッシュ、バージニア、バーレーと特殊なブラックキャベンディッシュ。フレーバーはワインとスパイスで我が社80年におよぶレシピの成果です」とありニュアンスがやや異なる。香りについてはここにワインとあるから本来はそれが正しいのだろう。
 道明寺という和菓子がある。桜餅の一種だが、砕いた米の粒つぶがわずかにのこる食感で、塩漬けの桜の葉でくるんである。これは桜の葉ごと食べるのだが、餅と餡の甘みに桜の葉の香りがまじる上品な味わいで、ときどきふっと花の香りが漂うときがある。桜と思いたいところだがぼくは梅の香をイメージしてしまう。
 このたばこがちょうどその道明寺そっくりである。
 バージニア味になんとも奥ゆかしい上品な香り、ときどきふっと梅(と解釈しちゃう)酸味が漂い、心をどこか遠くにつれてってくれる。今朝は庭でやる朝一番のたばこをこれにした。今年は寒さがいつまでものこるが快晴の陽射しは思いのほか暖かく、やはり春の訪れを感じさせる。戸外でやるこのたばこはまた一段とおいしくて、懐かしい。イギリス人もこんな繊細な味をたのしむ習慣があるのかとうれしくなる。
 おや。どこかから梅の香りが……。庭の梅の木はまだ蕾で開花してないのに。
 たばこの香りだった! ああ!

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by jinsenspipes | 2012-03-12 17:08 | ジャーマイン | Comments(12)