ダンヒル: マイミクスチャー965
ダンヒルのレシピではなく、顧客の注文のブレンドで、965は注文番号とされる。
こんな光景が想像できる。
20世紀初頭のある日、ロンドンのダンヒル店を紳士がたずね、店員に特注ブレンドを注文する。
「マイルドでおだやか。甘口がいい。舌焼けは嫌だ。エキゾチックな香りがあればなおいい。それでも全体にコクがあること」
その通りの逸品ができた。
葉組はラタキアとキャベンディッシュとオリエント。それぞれが上品に混じりあい、極上のハーモニーを奏でる。香りはほんのりラタキア。甘みはイギリス伝統のバージニアのキャベンディッシュ。ボディには低音域としてオリエントが重心をつける。添加物は何もないのにはんなりした甘みがあり、ラタキアの香りのほかにオリエントの芳香やバージニアのかすかな匂い。それがすべて渾然一体となり、全体としてはマイルドで甘口。ヘイタイプのバージニアは舌焼けの元だがここではキャベンディッシュなので舌焼けはまったくなく、ひたすらおだやかでゆっくり燃える。絶品だ。
今日は965をダンヒルのパイプ、ハーフベントで吸った。ぼくはベントよりビリアードやアップルが好きだが、965はベントがいい。ラタキアにはじまる微妙な芳香アンサンブルがベントだとよく香る。いや、ただ香りだけじゃないのかもしれない。鼻にくる香り、舌にくる味や甘み、口のなかに広がる味わい、そのすべてがこのタバコから響く。
しあわせにしてくれる。