サミュエル・ガーウィズ: コモンウエルス
缶をあけると赤っぽい葉と黒い葉が半々。バージニアは充分ストーブされた葉らしい。おなじみのラタキアの香りが強い。ごく細かいリボンカットでやや湿り気がある。ボウルに詰めるのも楽だし、最初の着火ですぐ火がまわり再着火の必要なし。さいごまでゆっくりたのしめる。
味は? これがじつにマイルドなんだ。このラタキアはまろやかで甘みがあり、もちろん香りが高い。ラタキアはこんなにマイルドだったかと考えて思いあたったのはふつうはオリエントで腰を強くしている。こちらはオリエント葉なしなのでラタキア味がストレートにくるんじゃないだろうか。ときどき熟れた果実の香りがくる。
むしろバージニアがやや隠れてしまった感じがある。イングリッシュブレンドのラタキアの配量は最高でも30%といわれるからこれは異例なんだろう。ラットレーだったらここにバージニアのブライトをちょっと足してバージニア風味をつけたかもしれない。しかしガーウイズ社はあくまでもまっとうに、やや杓子定規に、初志貫徹したんでしょうね。そういえばほんの一瞬、ガーウィズ社おなじみの石鹸臭がくることがあってニンマリする。ガーウィズ社の石鹸臭、マクレーランドのケチャップ臭、どちらもいかにもという感じで微笑ましい。
その奥の深さという点だが、これと比べるとダンヒルもラットレーもいまのブレンダーの底の浅さがみえてしまう。オーリック社もコールハス社もいい仕事をしているが、ブレンドの熟成度に格段の差がある。コモンウエルスには巨体の偉丈夫が無骨な手で可憐な花束を持つやさしさがあるが、一方には小学生のやさしさ、そりゃやさしいには違いないがいかにもおさない、満身の力をためたやさしさが感じられない。200年の歴史は伊達じゃない。
しかしぼくは(いつもしかしがつくが)ダンヒル、ラットレー(いまのブレンダーの)に親しみを覚えるときがある。たしかに熟成度の低い、青臭いブレンドだが、それだけにシャープで新鮮な閃きも感じる。それこそぼくのような年寄りの迷いで、昔を懐かしみつついまの世の中に生きている証拠なのかもしれない。