ガーウィズ・ホガース: ロープたばこ3種
コロンブスがアメリカ大陸に達してたばこをヨーロッパに紹介したが、真っ先にこれを好んだのは船乗りだった。ラム酒に劣らず強い酩酊感のあるたばこは荒くれ船乗りのまたとない慰安になる。しかし長い船旅でもたばこ葉を乾燥させず、香りを逃さないためには工夫が必要だった。まず考案されたのがお手のもののロープに撚りあげる方法である。
船乗り達はたばこ葉にたっぷり海水、ラム酒、甘味剤を染ませてロープに撚りあげた。やがて喫煙がヨーロッパ人の嗜好品となり、産業に発展したとき、このロープたばこはパイプ喫煙の標準形態となるのだ。
1792年、現存する最古参のたばこ会社、サミュエル・ガーウィズ社の創立時、メイン商品はこのロープたばこで、おそらく当時は無数のロープたばこ製造会社があったことだろう。ロープたばこは商品名として、twist、pigtail、bogieなどと呼ばれるが、SG社とその兄弟会社ガーウィズ・ホガース社のカタログにはいまでもこの名が読める。SG社の創立から200年、その前のコロンブス時代からすると500年の歴史のあるたばこがいまでも吸えるのだから驚きだ。
ぼくの関心もまったくそこにあった。たまたまこのブログにコメントを寄せてくださるmifuneさんにイギリスの通販会社をご紹介いただいたのでさっそく注文することにした。カタログを見るとガーウィズ・ホガース社のほうが商品が充実し15種のロープたばこがある。そのうち3種を選び、バルク(秤売り)販売なので、一番少量の25gずつを注文した。
Kendal Brown Bogie(通称Happy Bogie)ブラウン・ボギー(写真の一番下)
Kendal Black Bogie ブラック・ボギー(真ん中)
Kendal Black XXX ブラックXXX(一番上の太いの)
掲載した写真の量がそれぞれ25gである。ただしブラウンとブラックは秤量が少なかったのかおまけの小片が2、3入っていた。
おわかりと思うがロープたばこは葉巻とよく似ている。外側を薄いラッパーでくるみなかにフィラーが巻いてある。じつはたばこの歴史上、この船乗りのロープたばこはのちにパイプ用、噛みタバコ用、葉巻と、わかれて発展する。これがすべてのたばこの元祖なのだ。
まずブラウン・ボギー。カタログの解説にはナイフで薄切りのコイン状に切り、ボウルに重ねればいいとある。ロープの径はおよそ1cmで、試しに厚さ1cmだけ切り出し、40年愛用のスタンウェルに詰めてみた。スタンウェルのボウル径は18mmなのでスカスカかと心配したが、切り出すとき薄いラッパーはばらばらになり、なかのフィラーもぐずぐず、入れてみるとちょうどいいぐあいである。1cm厚を3個切り出して詰めるとボウルトップまでいっぱいに収まった。
着火にやや手間どるが、火がつくとあとはおだやかに燃えつづける。
うっ。強いッ! 超ストロング! たちまちニコチンがからだを駆けめぐり、お目めパッチリ、すばらしい酩酊感である。なるほど荒くれ船乗りにはこれでなくてはいけないのネ。
バージニア葉オンリーのはずだが日頃のあの青臭さや酸味、甘みはごくわずかでもっぱら強烈な「たばこを吸ってます」という感覚がきた。ウン十年前に初めてたばこを吸ったときの衝撃がもどってきた。日頃やってるダンヒルやラットレーなんぞこれと比べるとお菓子を食べてますという感じ。香りがどうの、酸味がどうのという前に「たばこ」の感触がある。
3種は3日にわたって吸いくらべた(1日に3服はとても無理)。
もっとも原始的なのはブラウンで一番強烈、ブラックはやや加熱加工してあるようで香りがあり、幾分マイルド(といってもかなりな強さだが)ブラックXXXも同様だがこちらは径が2cmほどでヨーロッパの標準パイプ径の1インチ(25mm)にはちょうど収まりがいいのだろう。
海外のレビューを読むと、ロープたばこは葉巻と喫味が似ていると書く人がいる。また切り出しにはシガー・カッターがいいらしい。ぼくは葉巻はやらないのでこのあたり不明だが、紙巻きに似てるという感じはあった。つまりニコチン依存者にとっては味わうより何よりまずニコチンの酩酊感がこなくてはいけない。利くゥ、という感じがなければ吸った気にならない。昔の船乗りにとっては何よりこれが大事だったのだと思う。ぼく自身、外出時は紙巻きを吸っているが、第一の目的はニコチン補給である。
しかし現代のパイプ愛好者は味や香りをたのしむほうに向いている。そうなるとロープたばこの需要は減少するばかりかとも思われる。
このたばこはぼくの常喫銘柄にはならないと思うが、パイプたばこの原点を知る、いい勉強になった。