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Jinsen's パイプ

ダンヒル: ナイトキャップ ( Nightcap )

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 オーリック社製のいまのダンヒルは8種あるが、3種は未体験だった。DeLuxe Navy Rolls、Standard Mixture、ナイトキャップの3種でどれも日本では入手できない。なかでも海外通販会社で人気の高いナイトキャップは売り切れが多くたまたまみつけたのでうれしくなって注文した。
 缶を開けるとラタキアの匂い、しかし965などと比べるとやや薄い感じ。火をつけると、ああ、やっぱり! ペリクが底にあるので全体がマイルドになっていた。葉組はバージニア、ラタキア、ペリク、オリエントでその混じりぐあいがじつにいい。ペリクは舌に甘酸っぱくからみ、ラタキアはもっぱら香り、そして口内にはバージニアのふくよかな感触。そのすべてが渾然と混じりあいしかし密やかに主張してくる。ダンヒルの傑作レシピである。
 ダンヒルたばこにはバージニア葉の味わいを追求したフレークがあり、充分料理したストーブドバージニアのロイヤルヨットがあり、ラタキアとバージニアの配合の妙の965がありと、どれもくっきりした特徴をもつが、ペリクをブレンドしたものは少なくて現行商品ではナイトキャップとDeLuxe Navy Rollsだけである(後者はバージニアとペリクのみのいわゆるVaPerだがぼくは未体験だ)。なのでナイトキャップはペリクを含む貴重なレシピになる。
 じつはオリジナルのダンヒルたばこにはElizabethan MixtureというやはりVaPerがあったがオーリック社製のラインナップにはない。古いダンヒル社のカタログによるとこのたばこはエリザベス一世女王統治時代(17世紀初頭)に開拓されたアメリカの最も古い植民地で栽培されたバージニア葉を使っているとある。ただぼくの記憶では数年前にマレー社製らしいこのたばこが日本のショップに入荷したことがあったが買いそこねた。
 たまたま965を常喫していたので比べてみた。どちらもラタキアの香りと甘さがある。しかし965の甘さはキャベンディッシュからくるからやや乾いた感じ、ナイトキャップはペリクからくるので甘酸っぱく湿っている。ラタキアは強烈な個性をもつスパイシーたばこなのでその強さを発揮するほど多量に使いつつなお味わいをマイルドにするにはそうした中和剤がいるのだろう。
 ナイトキャップの発売は1951年でダンヒルの商品としては遅いほうになる。さらにElizabethan Mixtureになると1971年発売だからすでにダンヒルはCarreras社に買収されまもなく自社製造を断念してマレー社に移管する(DeLuxe Navy RollsについてはダンヒルのHistory Bookには無く、よくわからない)。ペリクを含む商品の開発が遅いのは不思議だが、じつはダンヒルのMy Mixture(顧客のオーダーによるブレンド)は1917年からペリク入りがカタログに載っている。それをFactory Blend(自社製造オリジナル商品)にしなかったのはペリクの葉が入手難だったからではないかと想像している。前にあげたダンヒル社のカタログを読むとナイトキャップとElizabethan Mixtureの説明に「高価なペリクを加えてます」とある。バージニアやラタキアには「高価な」という但し書きはないから、ペリクは実際に高価、つまり入手困難だったのではないか。極端なペリク愛好者は別としてふつうのパイプスモーカーならラタキアの中和剤はキャベンディッシュの甘みで充分、あえてペリクを必要としなかった。と、まァ、これはまったくのぼくの妄想だが、そんなことも考えてしまった。
 しかし、ダンヒルがあえて発売したペリク入りナイトキャップがいまは965と並ぶベストセラーになっている! 
 このあたりは嗜好品の宿命で、価値を決めるのはユーザーということ、おもしろいネ。
 追記: ぼくはオーリック社製ロンドンミクスチャーにもペリクを感覚する。しかしオリジナルにはペリクの記載は無く、これはオーリック社独自の裁量だと思う。オリジナルのもつ甘みや熟成感をだすために微量のペリクを入れるのはよくあることだからだ。しかしこれはまったくぼくの独断であるいはペリクは入ってないかもしれない。

by jinsenspipes | 2011-05-16 11:49 | ダンヒル