ペーター・ハインリヒ: スペシャルカーリィ ( Peter Heinrichs: Special Curly )
ぼくのブログにコメントをくださるいまむーさんに紹介された。いまむーさんは、これもときどきコメントいただく天邪鬼さんのブログで知ったということでお二人にはお礼申し上げます。
ぼくが知らない銘柄なのでネットで調べてみると、いやはや、無知というのは恐い。知らないのは日本人とアメリカ人くらい。ヨーロッパでは超有名な銘柄だった。
ペーター・ハインリヒ(英語読みだとピーター・ハインリクスになる)はドイツ、ケルン市のパイプショップで、ヨーロッパで1、2を争う名店だった。ケルン市に3店舗を持ち、さらに個人コレクションを収蔵したパイプ博物館も持っているというから凄い。自家製パイプたばこも販売し、すでに300品種を数える。自社工場は持たないので製造は委託、どこかは不明だがマクバレンではないかとの噂もある。このスペシャルカーリィは近年発売されたもののようで(たぶん2002年頃)、オリジナルのスリーナンズやエスクードが復活したと評判になっていた。
ぼくが購入したのは100g缶である。缶をあけると、2cm径ほどのコインたばこがかなり崩れ、わらわらにほぐれたなかにコイン状が点在する感じ。熟成臭が強いが、少し乾き気味だった(つまりほんのり湿っているていど)。この大きさはスリーナンズとおなじだが、昔のスリーナンズはじくじく湿っていてコインが半ば溶けかかっていた。そして強烈な熟成臭があり、やや腐敗したような臭いたばこだった。
で、火をつけると、ああ、これはまさしくスリーナンズそのもの、厳密にいうと90%そっくりだ!
コインたばこは葉をロープ状に撚って作られたものである。こよりを撚るように重ねた葉を合わせて撚り、まずロープたばこを作り、それを輪切りにしてコイン状に切り出す。SG社やGH社はいまだにロープたばこを製造していて、ぼくが前にGH社のロープたばこ「カーリィカット」を買ったときこれはペリク抜きのスリーナンズだと感動したことがあった。
しかし現在のスリーナンズやエスクードはこの面倒な過程を簡略化している。ロープに撚るかわりに葉をプレスして板状にし、それをくるくる巻いて海苔巻き状にしたものをスライスする。たしかにこれもコインたばこになるが、これはかたちだけ真似たフェイクである。味がまるで違う。
あるドイツの好事家の記事をネットで読むと、ハインリヒ社はこのたばこをかつてエスクードを作っていた製造機械を使って作ったとあった。エスクードは1870年にイギリスのthe Cope Brothers社が発売、のちにギャラハー社に買収されたが1994年まで製造は続いた。そのあとデンマークのA.C.ピーターソン社がもともとの製造機械を使ってこれを再現するがそのA.C.ピーターソンもオーリック社に買収され、製造方法は近代化されていまはフェイクたばことなった。この記事を信じるならハインリヒ社は往事の製法そのままで作っているはずである。
ただひとつ、ペリクに問題があると思った。往年のスリーナンズのあの熟成臭はあきらかにルイジアナ真性ペリクだったがここで使われているペリクはケンタッキー葉のアカディアンペリクと思う。酸味と甘みが薄く、昔のあの何ともいえない臭みがない。これはたとえてみると往年のマレー社製ダンヒル965のあの臭み、シリア産ラタキアを充分熟成させた臭いと、今のキプロス産ラタキアの加熱早生熟成の違いとおなじである。
とはいえルイジアナ真性ペリクなんてのは半ば伝説のかなたに消えたようなものだからそれを望むのは酷というものだろう。ぼくは90%で満足しなければいけない。この点はいまむーさんも指摘されていた。
ちょっと考えさせられることがあった。ハインリヒ社はヨーロッパでは知らない人がいない有名ショップらしいがネットの記事は少なくてぼくは気づかなかった。これが問題で、インターネットはアメリカ主導だからたいへん偏っている。インターネットで世界情勢を知るのはアメリカの色眼鏡で世界を見るのとおなじである。ぼくがハインリヒ社について調べたときはドイツのネット記事を読むしかなかった。
もうひとつ。ハインリヒ社はオリジナル自家製ブレンドを300種ほど販売し、ヨーロッパ人はラタキアならNo39がいいとか、いやNo15がいいとかたのしんでいる。一方極東に住み、アメリカ経由の情報にしか接していない日本人は知名度のあるダンヒルとか、スリーナンズとか、いまは商標権を所有する外注会社が製造するたばこしか知らないですませている。なんともお寒い話である。
いまのところぼくはイギリスの名家、SG社やGH社のたばこに固執しているが、それは200年もの伝統を持つたばこからたばこ本来の味をからだに沁みこませたいからである。もしそこを卒業でき、先に進もうとするなら、さしづめハインリヒ社のカタログを片っ端からやってみるのもいいかなと思わせられた。ヨーロッパ人ならイギリスの名家に劣らずたばこの喫味の奥義を承知しているはずである。つまり文化を体得してる。ホットドッグとバーガー以外料理らしい料理を知らないどこかの国とは大違いである。
ペーター・ハインリヒ社のサイトは下記である(urlをクリックすれば飛べます)。
http://www.peterheinrichs.de/
ドイツ語表記で、英語表記もあるがホームページのみ、なかはすべてドイツ語で読みづらいが一度はお訪ねください。
いい経験させてくださったいまむーさんと天邪鬼さん、ありがとう!