マクバレン: HH ヴィンテージシリアン ( MacBaren: HH Vintage Syrian )
HHシリーズはマクバレン社の創設者、Harald Halbergのイニシャルで、そもそものアイディアは、小細工を排し、たばこ葉そのものが持つ味わいを充分ひきだしたものと説明されている。とくにこのヴィンテージシリアンのレシピは120年も昔、当時流行した「自然に還れ」たばこを模したものだそうだ。
缶を開けると、ラタキアとオリエントの香りが強かった。火をつけると、やはりその通り。しかし舌にとろりとくる甘みがありオリエント葉の荒さをやわらげている。この甘みはトッブフレイバリングでこの段階でマイルドなラタキア物と思ってしまうとえらい間違いである。やがて中盤にかかるあたりでこれは消え、かわりに別種の甘みがたち上がるがそれはまぎれもなくラタキアの甘みである。
これはまったく未経験のたばこだった。ふつうのラタキア入りイギリスブレンドとはまるで異なる。葉組をみるとラタキアが何と40%〜50%。約半分。そこにたっぷりのオリエント葉、くわえてケンタッキー葉、のこりがバージニア葉とあった。ぼくの印象はラタキアとオリエントの二重奏という感じである。
たまたま手許にダンヒル965があり、比べてみると、そちらはまぎれもないイングリッシュミクスチャー。中心にバージニア葉の旨味があり、香りづけにラタキアを配し、さらにキャベンディッシュで甘みをつけている。あまからを見事に案配している。それにくらべるとマクバレンのは辛いたばこである。
海外のレビューを読むとこのたばこはラタキア・ファン、オリエント・ファンに喝采で迎えられていた。なるほど中盤以降の喫味はラタキア味とその独特の甘み、それとオリエントのスパイス味、やや粗いがナチュラルな風味がどーんときてお好きなかたにはこたええられないだろう。ところがぼくはどちらかというとペリク・ファンだし、バージニアの青臭さが好きなほうなのでこれはちょっと辛く感じる。
そんなことを考えながらもう一度ヴィンテージシリアンにもどってみると、ぼくの好みはさておき、このたばこは並々ならぬ深みがあることに気づいた。ラタキアの香りと甘みがあり、オリエントのスパイス味、気がつくとトルコ葉もまじっているのでその葉巻味のスモーキーな香りもある。このあたりはラタキア・ファン、オリエント・ファンに尽きぬ話題を提供するだろう。さらにあらためて知ったのだがアカディアンペリクもベースにケンタッキー葉の味わいがあり、こちらヴィンテージシリアンにもどこかにケンタッキー葉の影がある。
さて。あとはシリア産ラタキアについてである。ラタキアには2種、シリア産とキプロス産がある。じつは昔のラタキアはすべてシリア産で、ぼくの記憶にもかろうじてマレー社製965のシリア産の味覚がのこる。なにしろ1970年代のこと、ぼくも初心者だったから明瞭ではないが、漠然とあるのは、香り高く、丸い味でその後のキプロス産のつんつんした味わいとは違ったようだ。しかしそのあとシリア政府はラタキアの輸出を止めたので以後はキプロス産のみとなる。オーリック製965をやったときはずいぶん粗い味だと思ったものである。
たぶん今世紀に入った頃と思うがふたたびシリア産が市場に出た。しかし製法が昔と異なり、往年の味わいはないとする識者が多い。くわえて永年キプロス産になれたおかげでいまではキプロス産ファンもいてかならずしもシリア産が上というわけではない。ラタキア物の海外レビューでも、キプロス産の長所をあげたものがかなりある。
ではこのヴィンテージシリアンはどうかというと、正直いってぼくはわからない。つまり現在のシリア産とキプロス産の違いについて明確なイメージはないのだ。しかしぼくはこのシリア産に不足はないし、香り、味、甘み、申し分ないと思っている。
しかし、ぼくはオリエント葉(ラタキアもオリエント葉の一種だ)の知識が貧弱なことを痛感しましたね。このたばこがあるうちにラタキア、オリエント、トルコ葉、そのあたりの深奥をじっくり吟味してみたいと思ってます。