サミュエル・ガーウィズ: サムズフレーク ( Sam's Flake )
SG社の現行たばこのうちでフレークは12種あり、ぼくは10種を体験ずみ、このあとブラッケンフレークを残すのみになった。そちらもすでに発注してあるので、よちよちながら全制覇になる。ミクスチャーのほうはやはり12種、カタログに掲載されているが、ぼくが吸ったのは4種のみ、しかしこちらはレイクランドとかクリスマスミクスチャーとか市場でみかけないものもあって全制覇はむつかしい。SG社はなにしろ200年もたばこ一筋に歩んできた老舗だからそのたばこを徹底的に味わってみればおのずからたばこというものの正体が知れてくるに違いない。ぼくが知らない世界が見えてくるはずだ、と、マァ、思うわけである。
さて。サムズフレークだが。
缶を開けると、ヤ、この湿りよう! じくじくと濡れていた。まるで昆布の佃煮みたい、不揃いなフレークがペチャッと折り重なっていて1枚剥がすのに苦労するほど。ぼくの知るたばこではジャーマインのペリクミクスチャーがやはりそうだったが、もっとという感じ。後日談になるが翌日になったらじくじく感はぬけ、FVFくらいになり、数日後にはちょうどいい乾燥ぐあいになった。缶入りたばこは開けるとこんなに早く乾いてくるものなんだな。
甘い、いい香りがある。これは1792とおなじトンキン豆らしい。火をつけると湿っているわりに火つきがよく、おいしいストーブドバージニアの味わいにトンキンの香りと甘さ、かすかな酸味、もう一種、別の葉がまじっているらしい。
海外のレビューのなかにこれは焼きたてパンの味だというのがあった。うまい表現である。ふっくらやわらかく、わずかに甘い香りが漂う。ぼくはふと和菓子を食べてるみたいと思った。トンキン豆の甘さがやわらかい煙とともに口にひろがりそう感じさせるのである。
このたばこは火つきも火持ちもいい。むしろよすぎてうっかりするとどんどん下に燃え進んでしまうから吹き戻しをしっかりしないといけない。これはトルコ葉のせいかもしれない。また日にちがたち、乾燥してくるにつれて燃焼も早くなるようである。最初の濡れぐあいはむしろそれにブレーキをかけているのかとも思った。気むづかいしいたばこではある。
ぼくはこのたばこで勉強させられたことが一つある。これは特別際立った味があるわけでなく、シンプルで軽いストーブドバージニア味である。しかし吸っているとじつにいい気持にさせられるのだ。焼きたてパンというのはまさにそれで、濃い味がなくてもこのやわらかい、ふっくらした、甘い香りを吸っているだけで清涼な、晴れた朝のような幸福感をおぼえる。こういうたのしみもまたパイプ喫煙の要素の一つなのだと思い知らされた。
このたばこはケンダル市の市長さんお気に入りだそうだが、いいセンスですね。ピーターラビットがとび跳ねる湖水地方ののどかな光景が目にうかんでくるようである。