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Jinsen's パイプ

ダンヒル: ロイヤルヨット【R2】 ( Dunhill: Royal Yacht )

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 このたばこのぼくの第一印象はミルクと蜂蜜味だった。甘くとろんとした味だがその裏にブライトバージニアの青臭さがしっかりただよっている。逆にいうと、野性的で青臭いバージニア味を甘みとミルク味がやんわりくるみ、野性味と都会味、相反する二つがここではふしぎな調和をみせている。こんな味のたばこはほかに類がない。じつにユニーク、唯一無比である。
 ダンヒルたばこの製造がダンヒル社からマレー社に移管したのが1981年、このあとしばらく質が落ちたというブーイングがしきりだったがふしぎなことにロイヤルヨットだけは好評だった。さらに2005年、マレー社の廃業で製造はデンマークのオーリック社に移って現在に至るが、ここでもロイヤルヨットの不評はほとんど出てない。もともとのダンヒルのレシピのユニークさがこのたばこの独自性を永らえているのかと思う。
 ロイヤルヨットがダンヒル社のカタログに初めて載ったのは1912年だそうである。ダンヒルのロンドン開店が1907年で、最初は客の注文を受けてブレンドする専門店だったがまもなく自社ブレンドを発表する。おそらくそのごく初期の商品だったと想像できる。手許にある1927年のダンヒルたばこパンフレットのコピーでロイヤルヨットはこう紹介されていた。たぶんこれがこのたばこの最初の紹介文と思われる。

「最高級たばこ
 以下に掲載する2種のたばこ(ロイヤルヨットとYe Olde Signe)は贅沢の極致です。
 そのたばこ葉は通常の大農園で栽培されたものではなく、小さな庭園で手をかけて栽培され、特別の品質を与えられました。
 ほかのたばこでは味わえないよろこびがあります。
 もう一度申し上げます。とっておきのときにお吸いください。いつもの満足をはるかに越えた満足感があります。
 『ロイヤルヨット』
 本物のシェード・バージニアです。
 たいへんやわらかい喫味。
 とくにデリケートな喉をお持ちのかたにお薦めします。
 (以下はYe Olde Signeの説明なので省略)」

 シェード・バージニア葉は直射日光を避け、日陰で栽培したたばこ葉で、アメリカのごく一部で作られ、おもに最高級葉巻のラッパーに使用された。最初のロイヤルヨットはこれを使ったのだろうか。
 つぎにおそらく1970年代のものと思われるダンヒルたばこのパンフレットでロイヤルヨットはこう紹介されている。

「じつに贅沢なたばこ。最高級のレモンバージニア葉とブロンズバージニア葉をじっくり熟成、これをしっかりボディがありクールスモーキングを約束するバージニア葉にくわえることで甘みと輝きを与えています。最後の工程でユニークな香りを添え、ほのかな芳香を漂わせました。この国際的に有名なたばこは人前で吸うのに最適です」

 この紹介文はダンヒル社の手になるものとしては最後と思われるが、現在、オーリック社製造になってからはLemon & Bronzed Virginiaの部分は割愛されて流布している。

 さて。ぼくのこのたばこの印象で、ブライトバージニア葉の青臭さと書いたのはまさにこれだった。マクレーランドでいえば2035や5115のブライトバージニア葉に通じる。ボディになるのはレッドバージニアで、ミルク味や蜂蜜の甘さはストーブした段階で出てくるものと思うが、その甘さはもっとかすかなものだから、やはりあとで甘みを添加しているのだろう。
 オーリック製になってからもこの特徴は変わらない。海外レビューでマレー製とオーリック製を比較したのがあり、ほとんどのかたがオーリック製になり香りもニコチンも弱くなったと指摘しているが、むしろいまのオーリック製のほうが吸いやすく好ましいと書いたかたもいる。
 ぼくのロイヤルヨット初体験はそう古くなく、2008年である。もちろんオーリック製になってからだがその初印象がミルクと蜂蜜+独特の青臭さだった。しかしオーリック製になってからも製法に変化があるらしく、最近のは着香が少し複雑になっている気がする。海外の識者はチョコレート味や干しぶどう味を指摘するがたしかにいろんな香りが花火のように飛びかう。かわりにミルク味と蜂蜜の甘さが薄れ、以前のシンプルなそれでいて強烈なしたたかさがたわめられている感もある。マ、時代の好みということになるのだろうか。

by jinsenspipes | 2013-07-07 21:09 | ダンヒル