【番外編】アメリカンスピリット: ペリク ( American Spirit: Perique )
番外編で今回は紙巻きたばこである。
いきつけの街角のたばこ屋のオヤジがアメリカンスピリットの見本品をサービスでくれた。ライトの3本入り。吸ってみるとしっかりしたバージニア味なので次にいったとき1箱買ってみた。黄色箱のやつである。
ぼくはパイプは家でやるだけ、外出時は面倒なので紙巻きを吸っている。ダンヒルの長いやつで、正式にはfine cutというらしい。いいバージニア味がくるたばこなのでもう何年もこれである。ところがアメリカンスピリットの黄色箱も負けず劣らずで、むしろダンヒルのほうが香料の香りが強いのに、こちらは評判通り無着香らしくストレートにバージニアだけがくる。
この会社にペリク入りがある。黒箱のやつである。ペリクたばこはアメリカのルイジアナ州の一地域で栽培するペリク葉、これを独特の熟成法で処理したたばこである。しかしペリク葉の栽培農家は激減し、いまは1軒をのこすのみ。のこりの農家はケンタッキー州から安価なたばこ葉を買い付け、これをおなじ熟成法で処理した代替品を出荷している。この代替品は業界でアカディアン・ペリクと呼ばれる。さてこの1軒のこった本物ペリク葉を栽培する農家、こことアメリカンスピリット社が独占契約し、本物ペリクをすべて買い上げることになった。おかげでパイプ業界にはアカディアン・ペリクしか流れないから、パイプ党はアメリカンスピリット社を目のかたきにしているのである。しかし、マ、これも時代の流れか。とにかく黒箱がどんなものか、やってみた。
火をつけると、ムムム、甘さ、酸味、加えてこの匂い、なんと、スリーナンズはここに復活していたのだ!
パイプたばこでペリクを強調したいわゆるVaPerはいまはごく限られた銘柄しかない。現在のスリーナンズはペリク無し、ケンタッキー入りになっている。ジャーマインのペリクミクスチャー、SG社のセントジェームズフレーク、エスクードなどはアカディアン・ペリクを使い、甘さと酸味は申し分ないが、香りはずいぶん薄まり上品なものになっている。マクレーランドのペリク物もそうである。しかしアカディアン・ペリクは純正ペリク葉を使わないだけ、熟成法はおなじだからペリクたばこの特徴はのこっている。昔のペリクの悪臭といいたい強い匂いのかわりに、アカディアン・ペリクは薄い上品な匂いだから、むしろこちらのほうが吸いやすいとする若いファンも多い。年寄りはぬか味噌の古漬けのあの悪臭を懐かしがるが、若い方は苦手かもしれないですしネ。
しかしこの黒箱は紙巻きたばこの傑作と思う。黄色箱(バージニア)のほうはやはり吸いなれたダンヒルに一歩ゆずって常喫するまでいかなかったが、黒箱は紙巻きでもここまでたばこ葉の特徴をだせるのだと感動して手が放せなくなった。
ぼくはアメリカンスピリットの黒箱にすっかり心を奪われた。深夜、そろそろ寝るころ、一服したくなることがあるが、パイプだと時間がかかりすぎて困る。これまではスコッチをワン・ショットにダンヒルの紙巻きを一服という日課だったが、いまはこの黒箱にしている。一日一本、ペリクを吸っているのだ。