study: 着香たばこの味わい方に学ぶ
「バニラの香りとポーチに書いてあるのに吸ってみると香りがこないときがある。またポーチを開けたときは香りがするのに吸うと香りがなかったりする。これはなぜ?」
バニラに限らず、チェリー、チョコレート、いろんな着香たばこがあるが吸ってみるとはっきりしないということはままありますよね。その原因を書いた記事で、ただこれはAmoさんの所説ではなくPaulさんというベテラン喫煙家が寄稿してくれたものとのことだった。
味を感覚する味覚は舌にあるが、味覚は甘み、酸味、塩辛さ、苦味を感じるだけ、たとえばバニラの香りは感覚しない。これは鼻の嗅覚が感じる。バニラたばこを吸ったときは、まず舌が甘さを感じ、鼻が香りを感じる。そこで記憶にある甘いバニラ味が思い出され、バニラ味と認識する。バニラの香りの元はバニラに含まれるバニリン(またはワニリンとも)という成分である。
さて。パイプ喫煙のときのたばこの温度はおよそ500℃で、吸い込んだ瞬間は一挙に700℃まで上がり、ふたたび500℃にもどるんだそうだ。ところがバニラの香りの元、バニリン分子の沸騰点は285℃で、500℃にもなるとバニリン分子は沸騰し、蒸発してしまう。つまりバニラの香りはトンでしまうことになる。バニラに限らずおおかたの着香剤の沸騰点はだいたいこのあたりかそれ以下なので、たばこに香りづけしてもこの高温では蒸発してしまうことになる。
しかし、それでも実際にバニラの香りが感じられるのはなぜか? それはバニリン分子に含まれる炭素原子のおかげである。バニリン成分の分子式はC8H8O3で炭素原子が8個含まれる。この炭素の沸騰点は4554℃と高く、たばこの温度ていどでは蒸発しない。そのおかげでバニラの香りが感覚できることになり、一般に炭素原子が多ければ多いほど香料の香りが残ることがあるのだそうだ。
しかしこれは特殊な例である。一般的なバニラたばこの場合は、できるだけたばこを燃え上がらせないようにし、バニリンの沸騰点以下に保つように心がければバニラの香りはちゃんとくる。バニラに限らず、着香たばこを香り高く味わうにはそもそも着香剤の沸騰点が低いせいだと心にとめておくことである。
なるほど。
この説明の科学の部分、パイブたばこの燃焼温度が500℃、これがあとあとまで記憶に残った。
ここで素人考えで想像の羽根をひろげてみる。500℃といっても喫煙中のボウルの温度が500℃というわけではないだろうと考えてみたのだ。我が国の先輩の戒めに、パイプを吸うとき火種は小豆ほどの大きさに止めるべきだ、というのがある。ボウルの内側ぜんたいにボウボウ燃やしてはいけないというのだ。このとき小豆大の燃えている(あるいはくすぶっている)火種は500℃だろうが、その周囲のたばこはそこまで高くなく、まして離れたところはかなり低温なんじゃないか。すると、そういうところのたばこは火種にほどよく蒸され、着香剤の沸騰点以下で芳香を放つのではなかろうか。
この記事がたばこの燃焼温度、着香剤の沸騰点、それを科学的に例示してくれたのでイメージを広げることができた。これは何も着香たばこに限ったことではない。バージニアたばこを香り高く、おいしく吸うときも、火種を小さく、ゆっくり間合いをとるようにすることが大事と、ときどきこの記事のことを思い出している。