
偶然だがPipesMagazine.comの6月3日号にこれのレビューが載り、記者がデンマークのオーリック社を取材した。記事によるとデンマークのパイプ喫煙者の90%がこのたばこの常喫者とのこと。おもしろいのはデンマークでは日本とおなじポーチ入りなのにアメリカだけは缶入り。どうやらアメリカ人はポーチだと安物と見るので特別に缶入りにしたらしいと、アメリカ人の記者が書いている。日本はご存知のようにポーチだがぼくはアメリカの通販会社から買ったので缶になった。
缶をあけるとおなじみのバージニア葉のいい香りに柑橘系の匂いがまじる。3インチ(7.5センチ)のフレークだが幅が4センチもある。丸めて火をつけると、ムムム、いい感じ。バージニア葉の深い味にトップフレイバーの柑橘系の匂いが爽やかである。お、吸っていて気づいたがペリクが低域にある。ちょうどマーリンフレークとおなじくらいの混ぜぐあいだろうか。それとかすかにバーレーの味がくることがある。これはほんのわずかだが、どうやらバージニア葉のしつこい味を丸めているようなのだ。
おなじポーチ入りのバージニアNo1と比べるとかなり手のこんだ作りのように思えた。あちらは律儀にバージニア一本槍、そのかわりマクバレン社独特のフレーバリングで味つけしてるがやや一本調子の感がある。バージニアたばこの深みとしてはこちらのほうが上に思えるのはペリクやバーレーを加えていわばエッジをつけているからだろう。
しかしサミュエル・ガーウィズやラットレーなど、ワンランク上の価格帯のバージニアと比べてどうかというと、ぼくはやはり歴然と差があるように思える。バージニアNo1やこれはいわばふつうのバージニアだが、SGやラットレーのは「ザ・バージニア」といおうか。おなじバージニア葉からここまで味をひきだせるのかと思わせる陰翳、変化があって愕然とする。デンマーク人にしても日頃のニコチン摂取は安価なゴールデンスライストで間に合わせるとして、冬の寒い夜、はるばる遠方の知人が訪ねてきたときは、とっておきのたばことして輸入ものの(たぶんエライ高い)サミュエル・ガーウィズのフルバージニアフレークなど開けてしみじみやるんじゃないだろうか。と想像したりして。
追記。
これを書いている途中でPipesMagazine.comの記事をあけてみたら追加記事(6月9日付)が載っていた。じつは前の記事で葉組はバージニア+わずかのバーレーとあり、ペリクの記載はなかったが、吸ってみれば一目瞭然、ペリクが感覚できるのでその記事は無視した。ところが追加記事によるとその後オーリック社の工場長から連絡があり、缶の裏面の記載にバーレーとあるのはペリクのまちがい。わずかのペリクが入りバーレーは無いとあった。しかしぼくはバーレーも感覚するのでこんども自分の感性にしたがい書き直しはしないことにした。

缶をあけると強烈な木いちごジャムの香りである。ぼくはベリー種の知識は皆無で特定できないが社の説明によるとブラックベリーとあり、海外のレビュアーもそう特定している。はい。強烈なブラックベリーの香りであります。
かなり湿り気のあるフレークで例によって四つ折りに詰めて火をつけると、ムムム、やはり強い木いちごの香り、それとワインのようなお酒の匂いが微かにあり、また上品な甘みがある。お酒、甘みともに特定できないが、これも社の説明ではブランデーとバニラであるとのこと。ブラックベリー、ブランデー、バニラ、うーん、ヨーロッパの豪壮な建造物の室内を思わせますなァ。それとご愛嬌で、例のケンダル芳香、ちょっと石鹸臭い匂いも漂う。
しかし吸いつづけるとブラックベリーの香りは急速にフェイドアウト、ブランデーの香もぬけ、かわりにバージニア葉のしっかりした味わいが前面に出てきた。火が弱まったとき少し強めにドローすると微かにブラックベリーが香るていど。バージニア葉にわずかに漂うブラックベリーの匂い、このあたりがおくゆかしい。
後半になるとバニラの甘みが主張してきた。ここまでくるとぼくにもバニラとわかる。それも鼻に香るのでなく舌に甘くからみついてくる。ブランデーはほとんど消えたがブラックベリーはやはりドローが強いとうっすら香る。バージニア葉を味わううちにバニラとブラックベリーがふっとくる感じが好ましい。おそらくお部屋には木いちごとバニラの芳香が漂っていることだろう。
あきらかに着香たばこではあるが、着香とはいい難い1792のトンキン豆の香り、グラウスムーアのケンダル芳香に共通する繊細なフレーバリングでぼくは気に入った。やはりSG社の製品には気品がある。
追記
掲載した写真の缶はじつはフェイクだ。買った缶の警告ラベルが興ざめなので3年前に空けた缶を代用した。この頃はバーコードが印刷されてたのネ。